TOP > バックナンバー > Vol.11 No.4 > 3 排気エネルギーを電力として再利用する熱電発電
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議/科学技術振興機構(JST)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」プロジェクトで実施された「エンジン排気熱による排熱発電システム構築」では、中低温度域熱電モジュールを製作し、エンジン排気系に生じるガス流、熱環境下での熱発電実証試験・伝熱精密解析に基づいたエンジンシミュレータGT-POWERでの排熱発電システムシミュレーション環境を構築した。作成した排熱発電モデルをエンジン全体モデルに組み込み、エンジン本体やターボチャージャの相互影響を考慮した排熱発電システムの性能評価に関する研究内容・成果について述べる。
排熱発電システムは、エンジンの排気ガスから熱を回収して固体半導体熱電変換材料により電力を得る仕組みを利用し排気系の未利用エネルギーから電力回生を行うものである。図3-1は排熱発電システムにおける熱―電気変換を担う基本素子構造(熱電発電デバイス)を示したものである。熱電発電デバイスでは、高温面と冷却面間に印加される温度差によりデバイス内に熱流が生じ、ゼーベック効果による電力発電が起こる。エンジンを搭載する車両では、車上電力需要の著しい増加に対し電力供給を行いながらCO2を削減できる手法としての需要がある。
排熱発電システムによる排気エネルギー回収方法としては、ターボチャージャ後の排熱を回収するシステムを想定した。図3-2に排熱発電システムの略図を示す。具体的な排熱発電システム導入による熱効率寄与度算出については、排熱発電システムを構成要素部品とするデバイスの実証試験実測値を基にして、排熱発電システムによるエンジンへの寄与度を、熱効率ベースで算出するために、米国Gamma Technologies社で開発されたエンジン・シミュレーション・ソフトウェアコンポーネント「GT-POWER」を用いた。GT-POWER上でエンジン排気系における排熱発電システムを構築してエンジン全体モデルに組み込み、エンジンのポンプ損失やタービンの動作点変化等の相互影響をエンジン全体として考慮し評価できる環境下で排熱発電システムの性能評価を実施した。
排気管からの排気ガスは図3-2に示すようにディフーザーを経て4経路に分岐した熱交換器に導入される。熱交換器部にはガス流方向と垂直方向の上下に熱電発電デバイスが配置され、ガス流路と反対側の熱電発電デバイス面にはエンジン冷却水を導引した水冷型ジャケットが配置される。熱発電部分は図3-3に示すように、熱交換器、緩衝材、熱電モジュール(熱電発電素子、セラミックス絶縁体)、冷却水管から構成される。これらの各伝熱要素をGT-POWERオブジェクトとしてプログラムする。GT-POWERシミュレーションでは排気ガス部での熱交換から冷却系への放熱までを一次元伝熱モデルとして解き、モジュール両端の温度差を予測する。モデル実装する際の特性数値は実証試験装置で取得した数値に基づきプログラム内装した。
図3-4に、ガス流方向への熱電発電デバイス列数に対するガソリンエンジンでの熱電発電デバイスの総発電量(Total発電量)、ポンプ損失分、Total発電量からポンプ損失分を除いた有効発電量の検討結果を示す。排気系に排熱発電システムを挿入すると、 流路抵抗に起因する排気圧力の上昇で、ポンプ損失としてエンジン効率に影響することから、排熱発電システムのサイズと生じるポンプ損失のバランスを考慮する必要がある。熱電発電デバイス全体による3層構造全体の発電量(Total power)はモジュール列数に応じて増大するが、熱発電部上流側から熱発電により順次熱量が低下しガス流に沿った下流側ほど回収できる熱量が小さくなるため、配置された後段の熱電発電デバイスでは発電量が低下し、総発電量は頭打ちとなる。他方、熱電発電デバイス列数を増やすと、熱交換器部の管摩擦の増大からポンプ損失(Pump loss)が増大する。したがって、熱電発電デバイスのTotal powerとPump loss rise分を考慮した有効発電量(Effective power)が極大となる熱電発電デバイス配列が決定されることになり、本取組みでは、熱電発電デバイス列数10列目で発電システムとしての最大発電量を示した。
本プロジェクトでは、エンジン排気系に生じるガス流、熱環境下での熱発電実証試験・伝熱精密解析に基づいたエンジンシミュレータGT-POWERでの排熱発電システム・シミュレーション環境を構築した。これまでは、エンジン排気系に排熱発電システムを搭載した場合の伝熱特性の詳細な調査や、エンジン排気系の設計に必要な排熱発電システム全体に関する車載用途シミュレーション伝熱モデルが構築されておらず熱効率改善寄与度などの効果を定量的に評価できなかったが、本取り組みにより排熱発電システム・シミュレーションモデルの基礎を構築できた。本研究の推進にあたっては、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)の皆様に多大なご支援をいただいたことに深く御礼申し上げる。
Tsutomu IIDA (Tokyo University of Science), Yasuo KOGO (Tokyo University of Science), Jin KUSAKA (Waseda University), Yasuhiro DAISHO (Waseda University)