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Vol.13 No.7

先進ディーゼル機関技術Ⅰ
Advanced Diesel Engine Systems and Technologies I
下田 正敏
Masatoshi SHIMODA
JSAEエンジンレビュー編集委員
JSAE ER Editorial Committee

講演紹介(1)ディーゼル噴霧火炎のすす生成過程

 井上ら(1)は、「レーザー誘起赤熱法によるディーゼル噴霧火炎干渉領域におけるすす生成過程に関する研究」と題して講演を行った。筒内の空気利用率を上昇させるため、噴射ノズルの噴口数を増やすと隣接噴霧との間隔が小さくなり、燃焼過程がその影響を受けるとともに、燃焼室壁面衝突後は隣接噴霧に衝突する。この過程で燃焼中に生じるすす粒子の酸化過程を阻害していると考えられる。実験装置の概略図を図1に示す。図2に2噴口ノズルからなる光学エンジンの覗き窓の形状。図3は高速度カメラを用いた直接撮影によって燃焼室下方と側方から観察した火炎の挙動を示す。図4は、噴霧間干渉領域におけるLII信号強度で、すすの体積分率に対応している。予想したようにこの領域のすすの体積分率が高くなっていることは確認できる。しかし、多噴口ノズルを用いる時は前述した不具合を低減するために,①多噴口ノズル径を小さくする ➁ピストン径を大きくする ③スワールを弱くする ④パイロット噴射等を用い着火遅れを短縮し噴霧火炎の発達を促進する 等を併用する場合が多い。そのため、今後の研究方針として、性能用エンジンでこれらの対策を併用した場合のエンジン性能と、光学エンジンでのすすの体積分率との相関を明確にして、どの方式が最善で有るかを示すとともに、その理由を明確にすることが期待される。

講演紹介(2)軽油・水素混焼エンジンの性能ポテンシャル

 稲垣ら(2)は「カーボンニュートラル燃料を用いたディーゼル混焼エンジンの可能性」第1報 ―3D-CFDによる軽油―水素 混焼エンジンにおける熱効率とエンジンアウトNOxの限界可能性の探索― と題して講演を行った。カーボンニュートラル(CN)に向けて水素をエンジンで燃焼させる内燃機関からのアプローチが注目されているが、水素は難着火性のため火花点火による火炎伝播燃焼が一般的である。これに対し軽油などの高着火燃料のパイロット噴射による多点着火を用いることで高EGR下での難着火燃料の燃焼安定化によってNOxの低減が期待できる。本研究では、軽油―水素デュアルフューエル燃焼(以下混焼と呼称)の低エミッション性に注目し産業用エンジンの運転範囲に上限近傍の作動点(IMEP 1.2MPa, 2000rpm, 過給圧 150kPa)における混焼エンジン性能を 3D-CFDによって明らかにした。
 混焼では水素導入法式として吸気管あるいは筒内早期噴射によって均質分布を想定するケース(図1)と圧縮TDC近傍の直接噴射によって水素の拡散燃焼を想定するケース(図2)がある。ここでは前者を、水素均質燃焼ストラテジー、後者を水素拡散燃焼ストラテジーと呼び両ケースを検討した。
 軽油割合10%での水素均質燃焼の熱発生率、温度分布を図3に示す。熱発生率はそれぞれの燃料に分割して示した。噴射時期をTDCに設定し、高EGR率にすることで穏やかな燃焼になる。図3に示すように軽油パイロットがまず着火して高温領域が形成され、その後、燃焼室リップで火炎が上下に振り分けられて、燃焼室全体に火炎が広がっていく様子が分かる。次に、軽油割合をパラメータとして混焼のOxと熱効率のポテンシャルを評価するためNOx―図示熱交率を図4に、NOx―スートのトレードオフを図5に示す。ディーゼルより混焼のスートレベルが低い。これらより混焼では、最適な軽油割合は8%でディーゼルと同等の図示熱効率48.6%を維持しつつ、ディーゼル比で1/4以下のNOxレベルが可能になる。
 更なる熱効率向上のため水素のTDC近傍噴射による水素拡散燃焼のポテンシャルを探求した。図6に熱発生率を、図7に温度分布を示す。燃焼の形態として、最初に軽油パイロットが発熱して高温領域を形成し、そこに水素噴流が突入することで、水素が着火する。その後、水素は拡散燃焼しながら、噴流の貫徹力で燃焼領域が広がる。ディーゼルと水素拡散燃焼のエンジン性能を表1に比較して示す。
 NOxが同程度で図示熱効率を比較するとディーゼルより3.4ポイント増加した。これは、水素均質供給に比べて、水素拡散燃焼では水素噴射時期の自由度が高いため、サイクル効率の高い高等容度燃焼が可能になったためである。このほか熱損失の低減、ガス供給のためディーゼルのような液体燃料の蒸発潜熱がないこと、TDC近傍のガス噴射の筒内への押し込みによって外部仕事が加わる事、などが図示熱効率改善の原因である。
 更なる軽油―水素拡散燃焼における熱効率向上の試みとして
・EGRガス中の水蒸気の除去
 LPL EGR系を想定しEGRガスを50℃まで冷却
・高圧縮比
の効果を図8に示す
 3D-CFDを用い、軽油ー水素 混焼エンジンにおける熱効率とエンジンアウトNOxの限界値の探索としては良い方向性を示したものと思われる。今後の実機の検証を期待したい。また同様の検討は、ガソリン直噴エンジンの時にも行われたものと思われ、ガソリン直噴サイドからの追加のご意見を頂けると幸いである。

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【参考文献】
(1)井上 大地、青柳 信之介、堀部 直人、林 潤,川那辺 洋:レーザー誘起赤熱法によるディーゼル噴霧火炎干渉領域におけるすす生成過程に関する研究,自動車技術会2023年春季大会学術講演会講演予稿集,No.20235220
(2)稲垣 和久、堀田 義博:カーボンニュートラル燃料を用いたディーゼル混焼エンジンの可能性(第1報),副題――3D-CFDによる軽油―水素 混焼エンジンにおける熱効率とエンジンアウトNOxの限界可能性の探索――、自動車技術会2023年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20235223