会長ごあいさつ

大津会長写真
会長 大津 啓司
  • 1983年 ㈱本田技術研究所入社
  • 2014年 同常務執行役員
  • 2016年 レース開発部門(HRD Sakura)担当
  • 2018年 本田技研工業㈱執行役員 兼 品質改革担当
  • 2021年 同執行役常務 兼 ㈱本田技術研究所代表取締役社長,現在に至る

新たな社会を作り出すために、皆さんと共にチャレンジしていきたい

自動車のはじまりから150年を超えましたが,この2年間は新型コロナウイルス感染拡大をはじめとしたさまざまな苦難に社会が直面しながら,急激な変化を経験していく時代に入ったことを誰もが感じざるをえない時間となりました.

このような時代の転換点に向き合い,チャレンジングな状況に諦めることなく,自動車に関わるすべての方々が垣根を越え,共に新たな世界を切り拓いていきたい.会長職を拝命するにあたり,このように考えています.

人類の歴史は「移動」の歴史ともいわれます.「移動」とは,言い換えれば,人が何かに会いに行くことといえます.それにより都市が生まれ,文明を築いてきました.自動車技術会は,国民生活の向上に寄与する団体として1947年に発足し,今年75年を迎え,個人会員数は約4.5万人にのぼり,賛助会員は700社弱のネットワークを持つ組織となっています.発足時から月日が流れる中で,私たち自動車業界を取り巻く環境は,CASEやMaaS等の技術やサービスへシフトしながらダイナミックに変化すると同時に,カーボンニュートラルに代表される社会課題解決に向けた要求も高まり続けています.

戦後間もない頃と今では,「移動」に対する技術の在り方,寄り添い方も大きく変わってきています.最近では,気候変動に対し国際的に影響力のあるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次レポートにて,第1次レポートから30年の時を経てはじめて,地球温暖化の主要因は人為的なものであることに「疑いの余地がない」と言及されました.改めて,人類社会はいま,日常や未来を脅かすさまざまな課題に直面していると認識しています.

例えば,将来世代を含めた全人類共通の財産である有限な資源に対して,私たちはこれまでのような「資源を採掘し,作って,捨てる」というリニア型から「循環」の概念に基づく経済システムへの転換期にあります.自動車業界は裾野が広く,与える影響も大きい業界です.ライフサイクル全体にわたり資源が効率的かつ持続的に使われる循環型社会を実現するためには,今まで当たり前だと思っていたことを疑い,時にはひっくり返すぐらいの新たな視点で物事を捉え,チャレンジしていくことも必要になります.また,“2050年カーボンニュートラル”を宣言した日本は,人口減と超高齢化社会に向かっており,誰にとっても安心安全な社会をつくるために求められる技術は,これまで以上に難易度が高くなっています.

技術者の皆さんが,専門分野のみならず,領域を超えた知識やつながりを持ちながら交流や発信を行えるような取組みを進めます.誰も経験したことのない困難には,自分の殻に閉じ籠ることなく,ひとりひとりが自分の幅を広げ,さらに大きな弧を描き,共創していく必要があると考えています.

私たちはいま,とても難しい時代を生きており,モビリティの未来も大きな曲がり角にあります.未曽有の日々を過ごす中で,私たちの価値観も大きく変わったと感じています.
しかしその中でも,変わらないもの,変わってほしくないものは,技術は本来人を幸せにするためにある,ということです.

自動車技術会は,Society of Automotive Engineers of Japan と表記されます.Societyの語源は,ラテン語の「親交,友愛,絆」,さらには「仲間,友」を表す語に由来します.これは,「分かち合う,結びつける」という意味も持っています.モビリティ技術に貢献する学術団体として,歴史を紡ぎ,人が学び/育ち/つながりを持つ「場」となりたい.そして,人と地球を幸せにする技術とは何かを常に問いながら試行錯誤し,新たな社会を作り出すために,皆さんと共にチャレンジしていきたいと考えています.

※2022年6月発行 自動車技術会会誌「常識の枠を超え,技術の力を結集し社会変革をリードしよう」より

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