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着火・燃焼 1,2,3(Ignition 1, 2, 3)

着火・燃焼 1(Ignition 1)

 中野ら(6-1)は,定容燃焼容器内に封入したn-heptane/O2/Ar混合気に対して,分子構造の異なる環状炭化水素を添加することで,低温酸化反応に及ぼす環状炭化水素の分子構造の影響について検討した.試験結果の分析には,飛行時間型質量分析計を備えた包括的2DGC(GC×GC-TOFMS)を用いた.
 結果として,OOR'-R"OOH やHOOR'-R"OOHに至る低温酸化反応過程から生成されると考えられるheptanedioneの検出強度は,n-heptaneの骨格を有する他の含酸素炭化水素の検出強度とほぼ比例することから,n-heptaneの低温酸化反応の進行の指標となり得ることを示した.(図6-1)(林)

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着火・燃焼 2(Ignition 2)

 武原ら(6-2)は急速圧縮機を用いて高速流動場での火炎放電を高速度カメラ撮影により詳細に調べている.図6-2に撮影結果の一例(ガソリン空気過剰率1.7,渦流室内流速が5,10,15,20 m/s)を示す.観測された放電挙動を著者らは下記のように説明している.
1.プラグ電極間の気体で絶縁破壊が生じ,プラグ間で瞬間的に強い発光が観測される.
2.プラグ間で形成された放電チャンネルが渦流室内の流れによって伸長する.この際,放電チャンネルの短絡がおきることがある.
3.放電末期には短絡,再放電を繰り返しながらやがて放電チャンネルが吹き消える.
さらに著者らは火花放電モデル構築のため,放電場の電界を2次元のモデルを用いて計算を行っている.今後のさらなる現象解明ならびに計算モデルの実用化が期待される.

 大雲ら(6-3)は圧縮膨張機関および実機関を用いて,希薄・乱流条件下における火花点火から初期火炎核形成までの現象を,可視化および分光計測により詳細に観察している.図6-3に点火からのCH*(431nm)の発光強度履歴,可視化範囲内の火炎面積の割合の遷移および燃焼質量割合(MFB)を示す.φ=1.0では点火から0.8ms後にCH*の発光強度が最大となるが,φ=0.7, 0.8, 0.9では1.6ms後に最大となり,当量比が小さいほど燃料濃度が低いため発光強度が全体的に低い.また,当量比が小さいほど火炎伝播速度が遅いため,点火プラグ近傍のCH*の発光が低い強度で長期間続いている.可視化と分光計測を同時に測定することによって点火現象への理解が深まっている.(田上)

着火・燃焼 3(Ignition 3)

 着火・燃焼(3)では4件の講演があり,着火・燃焼の基礎特性に関する研究の発表が行われた.エンジン内のノッキングの抑制やEGR時の着火特性は需要な課題であり,実験的あるいは数値的アプローチで着火・燃焼の詳細過程に迫るものである.ここでは,ノッキングに関する研究例として2件を紹介する.

 高橋ら(6-4)は急速圧縮膨張装置を用いた燃焼室筒内の燃料予混合気中で誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge: DBD)を形成し,エンドガスの自着火に対する着火時期や圧力振幅などの影響を調べた.イソオクタンおよびプロパンを燃料として希薄予混合気を形成し,DBDを圧縮前に動作させた.DBDを使用しない場合は,エンドガスに着火し強い圧力振動が観察された.一方,DBDを付加すると圧力振動の振幅が低下した.イソオクタンの画像からは,DBD印加時には自着火に先立ってエンドガス中に青炎がありその熱発生が確認された(図6-4).プロパンでは顕著な発光は観察されていないが,ノッキングインデックスの現象は同様に確認された.本手法はエンドガス中で反応を促進していることでノッキングを抑制しており,その詳細機構はさらに調べる必要があるが,新たなノッキング抑制手法としてその可能性が期待できる.

 三好(6-5)はかつて耐ノック剤として用いられていた四エチル鉛 (TEL)の燃料への添加効果についてSI 燃焼への効果を検討している.炭化水素燃焼の反応機構としては,ガソリンサロゲート反応機構を用いた.また,四エチル鉛の耐ノック効果に関してはBensonの仮説を取り入れた詳細反応機構を用い,反応速度定数を量子化学計算で見直した.その結果,オクタン価一次標準燃料 (PRF) に対しては添加により非常に大きな着火遅れ時間への効果がみられた(図6-5)

 また,トルエン,メチルシクロヘキサン(図6-6)および、ジイソブチレン(図6-7)への添加に関しても点火による着火遅れの効果が見られた.TELを直接使用することはないであろうが,同様な効果を持つ物質を見つけることができれば添加によって効果が期待できることを示唆している.今後の進展に期待したい.(新城)

【参考文献】
(6-1) 中野道王, 高澤 悟,門前光佑,西田亮介,吉田颯人,長野幸秀,北川敏明:環状炭化水素の分子構造がn-heptaneの低温酸化反応に及ぼす影響,2019年内燃機関シンポジウム,講演番号37
(6-2) 武原 直人, 任 方思, 中谷 辰爾, 津江 光洋, 菅沼 邦彦:高温高圧場における高流動を伴うガソリン希薄混合気の火花放電挙動,2019年内燃機関シンポジウム,講演番号83
(6-3) 大雲 晶,河原 伸幸,冨田 栄二:火花点火から初期火炎核形成過程の可視化およびラジカル自発光計測,2019年内燃機関シンポジウム,講演番号84
(6-4) 高橋 栄一,永野 幸秀,北川 敏明,西岡 牧人,中村 大造,中野 道王:誘電体バリア放電を用いたノッキング強度の緩和現象,第30回内燃機関シンポジウム講演論文集, 講演番号97 (2019)
(6-5) 三好 明:SI 燃焼への燃料添加剤の効果,第30回内燃機関シンポジウム講演論文集, 講演番号100 (2019)