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1 SCR,後処理システム

1.1 SCR I(セッションNo.94)

 本セッションではSCR(選択的触媒還元)に関連する報告が5件なされた.ここではディーゼル車から排出されるNOxの低減に向け,炭化水素を還元剤として使用したHC-SCR触媒の性能改善の取り組みについて紹介する.

 岡崎ら(1-1)はディーゼルエンジンから排出されるNOxの低減に向け,炭化水素(HC:Hydro-Carbon)を添加することで,酸素共存下でNOxを還元するHC-SCR触媒の検討を行った.図1-1に反応のメカニズムを示す.

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 HC-SCRの主反応はNOの酸化反応と炭化水素の部分酸化反応(含酸素炭化水素の生成)が進み,NOxを還元するものである.HC-SCRにおいては,炭化水素の酸化によりCO2と水を生成する副反応を抑制することが性能向上のカギである.
 HC-SCR触媒として単体試験により,活性金属としてAg(銀)を使用したAg-アルミナ触媒を選定した.銀アルミナ触媒のNOx低減性能の高いものと低いものを比較するため,電子顕微鏡で観察を行った.図1-2に電子顕微鏡写真を示す.

 NOx低減において低性能触媒に対し高性能触媒はAg粒子が微細であることを示した.更にアルミナの酸強度を高めることによりNOx低減性能が高まることから,Agから電子が固体酸性の高いアルミナ担体に移動することで銀粒子がアイオニックの状態であると推定した.推定された触媒材料のコンセプトを図1-3に示す.これらの知見をもとに触媒を改良し,エンジン実機でNOx低減性能を評価した結果,改善を確認した.
 今後は推定されたメカニズムをベースに,HC-SCR触媒の更なる性能向上に期待する.(細谷)

1.2 SCR II(セッションNo.95)

 本セッションではSCRに関連する報告が4件なされた.ここでは尿素SCR触媒の低温性能改善に向けた取り組みについて取り上げる.

 杉山ら(1-2)はディーゼルエンジンから排出されるNOxを低温で効率良く浄化するため,還元剤となる尿素水を効率良く分散・蒸発させ,アンモニアへ加水分解を促進する取り組みを行った.
 NOxを還元するための尿素水を排気管に噴射後,分散・蒸発させるミキサーに着目した.ミキサーに使用するステンレス鋼の表面をレーザ加工によりテクスチャ形状とした.図1-4に試験片表面の2D,3Dイメージを示す.液滴の挙動解析のための試験装置を図1-5に,また,表面テクスチャ形状の違いによる衝突液滴挙動を図1-6に示す.リフレット形状により液相は溝の奥深くまで浸透すること,ディンプル形状は溝に触れていない微小の空間が存在することを確認した.微細な溝に衝突した尿素水粒子はライディングフロスト現象(液滴が接触面ではじけ,横滑りするイメージ)を起こさず,尿素水粒子を微粒化,蒸発を促進することを示した.

 今後,得られた知見により尿素SCR触媒システムにおける低温での尿素水の蒸発促進,デポジット抑制,NOx低減性能改善につながることを期待したい.(細谷)

1-3 後処理システム(セッションNo.96)

 本セッションではガソリンエンジン用触媒とディーゼルエンジンのEGRデポジットに関連する報告が4件なされた.ここではガソリンエンジン用三元触媒の劣化挙動解明の取り組みについて報告する.

 福富ら(1-3)はパラジウム系三元触媒におけるリーン雰囲気下での劣化メカニズムを明らかにするため,触媒上のPd(パラジウム)粒子の成長挙動を収差補正・環境制御型透過電子顕微鏡(ETEM)を使用し観察を行った.
 還元雰囲気下として水素共存下と同じ挙動を示した真空条件下の1000℃での観察結果を図1-7に示す.3~4nmのPd粒子P1とP2が徐々に移動し,その後,衝突し合体して,粒成長することを示した.

 一方,酸化雰囲気下における900℃でのPd粒子の挙動を図1-8に示す.Pd粒子のP3が酸化雰囲気下で縮小することを示した.X線回折の結果からPdOに帰属するピークが認められないことから粒子が微細化していることを示した.推定されるメカニズムを図1-9に示す.

 酸化雰囲気下では,Pd粒子がPdOに酸化して微細化し移動,より大きなPd粒子への捕捉が繰り返され,粒子成長が促進されることを示した.また,酸化雰囲気下でのPd粒子の成長が母材の違いにより抑制されることから,Pdが酸化されにくい母材の選定により改善されることを示した.
 母材の改善により更なる耐久性の改善を期待したい.(細谷)

【参考文献】
(1-1) 岡崎功,堀恵悟,平野萩祐,河野裕也,服部秀哉,沖大祐:平成28年排出ガス規制に対応した新規SCR触媒の開発, 2019年秋季大会学術講演会講演予稿集,No. 20196016,2019
(1-2) 杉山直輝,野原徹雄,菊池飛鳥,戸谷友輔,落合成行:可視化技術によるマクロ~メソ~ミクロスケールでの排ガス・液滴挙動の確認(第二報),2019年秋季大会学術講演会講演予稿集,No. 20196020,2019
(1-3) 福富駿祐,丹功,永井亮,小倉明,吉田秀人,竹田精治:環境制御型透過電子顕微鏡による雰囲気変動下におけるPd粒子の劣化挙動解析,2019年秋季大会学術講演会講演予稿集,No. 20196022,2019