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Vol.10 No.4

1 SIP「革新的燃焼技術」最大熱効率50%超への挑戦
-ガソリン燃焼チーム:如何にしてその知見・技術は、生み出されたか?-
野口 勝三
Katsumi NOGUCHI
編集委員、本田技研工業株式会社
Honda Motor Co.,Ltd.

本企画について

 革新的内燃機関を地球環境を救う切り札にしようと、2014年にSIP「革新的燃焼技術」4チームの中の一つとして、ガソリン燃焼チームが発足した。本企画では、そのガソリン燃焼チームが、如何にしてSIPの研究目標である最大熱効率50%超を達成したか? その研究に努められた先生方から研究成果・新知見の紹介と共に、ここでは、他の文献では紹介されていない領域(研究課程での挑戦・努力・苦労や成功の瞬間の感激等)の話も紹介していただけるようお願いした。その狙いは、読者の皆さんに、エンジン研究の面白さや喜びを伝えたいとの思いからである。本企画は、3号からなるSIP特集シリーズの第二弾として、ガソリン燃焼チームが実現を目指した燃焼コンセプト「スーパーリーンバーン」に関する研究開発について紹介する。この分野の研究や技術に興味がある読者で、経験が少ない方にも分かりやすいように、概要を解説してくださるよう後述の4名の執筆者にお願いした。研究の詳細を知りたい読者には、参考文献を参照して頂ければと思う。また、産学連携研究や今回のリーンバーンの革新性等に関する興味深い解説記事が、SIP「革新的燃焼技術」特集号の第一弾(1-1)に掲載されている。こちらもお読みいただければと思う。

1 ガソリン燃焼チームの連携

 SIP特集シリーズ第一弾のリーダー対談(1-1)にて、本チームの研究責任者である慶應義塾大学名誉教授の飯田先生が語った言葉に「どれか一つが欠けても駄目だった。なんか神がかったチームでした。28大学すべての成果ですね」とのコメントがある。その28大学が、研究項目により五つの班(図1-1)に分かれたチーム体制(1-2)となり、連携して研究開発に取り組んだ。

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 複数の大学が異なる方法で計測を行い、互いに成果を授受しながら研究を進め連携するには、同一のガソリンで行う必要があるとの考えから、まずSIPガソリンサロゲートの研究が、広島大学教授の三好先生らによって進められた。また、点火プラグ位置でのガス流動をµPIV・高速PIVシステムにて計測し、検討することにより、スーパーリーンバーンで安定した着火や燃焼を得るには、ガス流動を毎サイクル同方向に保ち、適切な放電状態を利用することが重要であることが分かった。冷却損失低減のため壁面熱伝導に関して検討、ピストントップ中央部における速度境界層特性をµPIV計測にて解明した。従来では、壁面近傍の流動特性は壁乱流に従うと考えられてきたが、本研究にて、境界層が乱流でも層流でもないないことを世界で初めて明らかにしている。その得られた結果から、壁面乱流制御で熱伝導を抑制する手法ではなく、別の手法で冷却損失の低減が必要と分かり、層状水噴射遮熱がその一つとして提案された。最初はうまく始められなかった学学連携だが、それぞれの分野の高い基礎知見を持った人達の相乗効果により、様々な技術が開発された。SIPプロジェクト終盤には、新たに開発された多くの技術や知見によりスーパーリーンバーンでの燃焼安定性が向上しており、研究開発当初に比べ水噴射条件の拡大が可能となっていた。その結果、W/F=50%の水噴射(圧縮比17、λ=1.9)にて、燃焼安定性を保ちつつ、ノッキングの抑制及び冷却損失の低減が得られ、グロス図示熱効率52.6%を達成したとしている。ガソリン燃焼チームの全研究プロジェクトチームメンバーが、連携することで得られた成果である。