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Vol.12 No.8

脱炭素社会に向けた水素焚きガスタービンの開発
Development of Hydrogen Fired Gas Turbine for the Decarbonized Society
井上 慶(三菱重工業株式会社)

Kei INOUE(Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)

アブストラクト

 世界的に脱炭素社会への動きが加速する中で、三菱重工業(MHI)は水素焚きガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電システムの開発に取り組んできた。これまでに、天然ガスに30 vol%の水素を混合して運転できる大型ガスタービンむけ燃焼器の開発を完了し、現在は水素専焼が可能な燃焼器の開発を進めている。また、これらの技術を活用し、2020年代半ばの実用化を目指して、欧州や北米などの水素焚きGTCCプロジェクトに参画している。本報では、国際的な水素サプライチェーンの構築の鍵となる、大容量・高効率の水素焚きGTCCシステムについて概要を紹介する。

脱炭素社会と発電用ガスタービン
(1) 脱炭素化にむけたシナリオ

 将来の脱炭素化に向けたMHIのシナリオを図1に示す。中期的には、CO2回収利用技術(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)を活用した化石燃料由来の水素(ブルー水素)の普及が見込まれる(1)(2)。GTCCは、従来通り安価で、安定的な化石燃料による発電を続けながら、発電効率を上げる事(3)にくわえ、ブルー水素を利用した水素混焼の導入によりCO2を削減する。さらに長期的には、コスト削減と技術革新により、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)の導入が進み、水素専焼発電との組合せにより、CO2排出ゼロを達成するシナリオが考えられる。

(1) 水素焚きガスタービンのメリット

 大容量・高効率の発電用ガスタービンにおける水素利用には次の環境的・経済的メリットがある(図2)。まず、既設のガスタービン設備に対し最小限の改造を加えることで、低炭素化あるいは脱炭素化が可能なことである。ガスタービン燃焼器と燃料供給系統以外の大規模な改造が不要なため、投資コストの抑制が可能であり、水素燃料の導入のハードルを下げると考える。また、ガスタービンは低純度水素が利用できるため、液体水素のみならず、メチルシクロヘキサンやアンモニアといったキャリアから生成した水素での運用が可能である。くわえて、水素専焼ガスタービン発電設備は、ひとつのプラントで燃料電池車に換算して200万台相当の水素を消費するため、大規模かつ安定した水素需要を喚起し、サプライチェーン拡大や、水素生成コスト削減に繋がることが期待される。

ガスタービンむけ水素焚き燃焼器の概要
(1) 水素混焼Dry Low NOx(DLN)マルチノズル燃焼器

 水素混焼による逆火発生リスクの上昇を防止することを目的として、従来のDLN燃焼器をベースに開発した水素混焼燃焼器を図3に示す。空気は圧縮機から燃焼器に供給され、旋回翼(スワラー)を通過して旋回流となる。燃料は旋回翼に設けられた微小な孔から供給され、旋回流により周囲の空気と急速に混合する。一方、旋回流の中心部(以下、渦芯)には、低流速の領域が存在し、当該領域を火炎が遡上することで逆火が発生すると考えられる。そこで、水素混焼燃焼器ではノズルの先端から空気を噴射して渦芯の流速を増加させ、渦芯の低流速領域を排除ことで逆火発生の防止を図っている。

(2) 水素専焼マルチクラスタ燃焼器

 水素がさらに高濃度になると、前項の水素混焼燃焼器に採用した旋回流による燃料と空気の混合方式では、渦芯部の低流速域で逆火の発生リスクが高くなる。そこで旋回流を利用せず、より微小なスケールで空気と水素を混合できる混合方式の方が高い逆火耐性を有すると考えられる。このため、水素専焼燃焼器は、革新的低炭素石炭火力発電の実現を目指す実証試験発電所である大崎クールジェン(4)に適用中の石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)用マルチクラスタ燃焼器をベースとして開発を進めている(図4)。前項の水素混焼燃焼器の燃料供給ノズル(8本)に対して、より数多くのノズルを配置し、1本のノズルの孔を小さくする(燃料と空気の混合スケールを小さくする)ことで、高い逆火耐性と低NOx燃焼を両立できる可能性を有する。

まとめ

 本報では、MHIの発電用水素焚きガスタービンの開発状況を紹介した。本報で紹介した水素焚きガスタービンの開発内容は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(水素社会構築技術開発事業:プロジェクトコードP14026)の成果の一部である。同助成事業において水素・天然ガス混焼方式のガスタービンの燃焼器の開発に取り組み、30 vol%の混焼条件においてガスタービンの運転が可能な目途を得た(5)。また、同助成事業のもと、水素専焼燃焼器の開発を進めている。当社は、2020年半ばごろから開始が期待されるCCSを組み合わせた化石燃料由来の水素利用を経て、再エネ由来の水素利用が主流になる社会(2050年頃を想定)に向けて、当社の開発する水素焚きガスタービンを通して、国際的な水素サプライチェーン構築を牽引し、脱炭素社会の実現に貢献していく。

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【参考文献】
(1) 資源エネルギー庁,令和元年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/index.html
(2) 経済産業省,CCSを取り巻く状況 CCSの実証および調査事業の在り方に向けた有識者検討会
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/ccs_jissho/pdf/001_05_00.pdf
(3) 石坂 浩一ほか,1700℃級超高温ガスタービンの要素技術の開発,三菱重工技報,Vol. 54, No. 3. pp.23-31(2017)
(4) 遠山 克己, 大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況,日本ガスタービン学会誌, Vol. 47, No. 4,(2019), pp.223-230
(5) 井上 慶ほか,水素・天然ガス混焼ガスタービンの開発,三菱重工技報,Vol. 55, No. 2, pp.1-5(2018)