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Vol.13 No.8

新型eHEV用 L4エンジン
New in-line4 engine for eHEV
牛尾 信博
Nobuhiro USHIO
本田技研工業株式会社
Honda Motor Co.,Ltd.

アブストラクト

 Hondaは新型ハイブリッドシステム(eHEV)を搭載した車を22年モデルCIVICから順次世界中で発売している。このシステムはEV走行、ハイブリッド走行、エンジン走行の3パターンのモードがあり、これらをシームレスかつ自動で切り替えることで爽快なドライビングフィーリング・高い環境性能・上質な静粛性をユーザーに提供している。そのパワーユニットの中心を担う新型エンジンについて紹介する。

新型 2.0L直列4気筒ガソリンエンジン
適用技術

 図1に新型2.0L直列4気筒ガソリンエンジンの主要適用技術を示す。基本性能である出力、燃費、エミッション(以下EM)の改善には最小限の燃料を短期間に完全燃焼させることが重要である。そのため、本エンジンではインテークポートやピストン冠面形状を工夫して筒内流動を強化し、そこに燃料直噴システムで適切なタイミングで燃料噴射を行うことで急速燃焼を実現した。また、エキゾーストポートを上下2ピースのウォータージャケットで包み込む構造とすることで排ガス温度を低減し、エンジンを保護するために使用していた燃料を減らし燃費、EMを改善した。また、急速燃焼により高まった燃焼圧力を受け止めるためにクランクシャフトを高剛性化しノイズと振動(以下NV)の悪化を防いだ。次項目より出力、燃費、EM改善のキー技術である燃料噴射システムについて詳述する。

燃料噴射システム

 図2に燃料噴射システムを示す。噴口は2段形状(図2-a)とし、各噴口径、噴霧ターゲットは筒内燃料付着量が最小となるようにCFDを用いて最適化した。ここで、大径噴口のターゲットをタンブル流の中心(図2-b)とし、燃料をシリンダ中心に集めることで筒内混合気のA/F均質度と筒内燃料付着量低減の両立を図った。

燃料噴射ストラテジ

 図3に燃料噴霧特性を示す。燃料圧力が高くなることで噴霧の微粒化は促進されるが、同時に貫徹力も増加し、その結果シリンダ壁面やピストン冠面への燃料付着量が増えEMや燃費が悪化する。貫徹力を低下させる対策として、噴射を数回に分割する方法がある。
 動画1に分割噴射の貫徹力低減効果を示す。分割数を増やすことで同じ燃料量、燃料圧力でも貫徹力が低下していることがわかる。

Movie.1 分割噴射の貫徹力低減効果

 次に、燃料噴射時期の代表的な例を図4に示す。

【筒内温度が高い場合】
  • MBT領域は 筒内混合気のA/F均質度向上のため吸気行程早期に噴射
  • ノッキングが発生する領域は圧縮行程噴射
【筒内温度が低い場合】
  • 筒内燃料付着量を最小限にするため運転状況に応じて最大4回の分割噴射
出力・燃費特性

 図5に出力特性を示す。新型エンジンは従来エンジンに比べ全領域においてストイキ領域を拡大しつつ 高トルクを実現した。また図6に正味燃料消費率(以下BSFC)を示す。新型エンジンは、燃料消費が少ない領域(230g/kWh以下の領域)が拡大され、その結果、様々なシチュエーションや走行モードにおいて燃料消費を抑えつつエンジンの高トルク領域を使用する運転制御が可能となり、爽快なドライビングフィーリングと高い環境性能および上質な静粛性の両立が可能となった。

まとめ

 新型ハイブリッドシステムの走行性能と環境性能を両立させる新型2.0L直列4気筒ガソリンエンジンを開発した。今回は主要技術に絞って記述したが、その他の適応技術詳細は既報の参考文献に記載している。本稿および既報論文が少しでも皆様のお役に立てば幸いである。
 これから益々電気自動車(EV)へのシフトが加速し、また様々なライバルモビリティが出現すると思う。しかしガソリンエンジンもまだまだ技術進化を続け世界中の人々に新たな価値を提供できると思っている。そのためにも魅力的かつクリーンなエンジンの実現を目指しこれからも開発に取り組んでいきたい。

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【参考文献】
(1)古畑 泰介、土屋 泰斗、松本 康央、伊東 信彰:2022年モデルハイブリッド車用 新規e:HEVシステムの開発、 2022自動車技術会 秋季大会 講演番号139
(2)笠島 祐也、江川 猛、牛尾 信博、近藤 智文、山口 亮:2.0L直列4気筒直噴エンジンの開発、 2022自動車技術会 秋季大会 講演番号128