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コラム

時間の戦争
War of time
小酒 英範
Hidenori KOSAKA
編集委員、東京工業大学
JSAE ER Editorial Committee, Tokyo Institute of Technology

 COP24の参加国首脳に向かって「あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています。」と強烈なメッセージを放ったグレタ・トゥーンベリさんは、当時15歳であった。この発信に対し、数百万人の同世代の若者が賛同し、世界各地で彼らによる抗議デモが起こるなど、その影響は今でも広がり続けている。地球規模の気候変動とエネルギー政策の問題は、自然現象、エネルギー技術、経済、社会構造などが複雑に絡み合う課題であり、エネルギー工学に係る研究者の一人として、筆者はグレタさんの意見に全面的には賛同できない。しかし、彼女の問いかけに対し、真摯に向き合うべきであると強く思う。ここでは、エネルギーの課題を取り上げるのではなく、10代の若者と社会人である「大人」との断絶について感じていることを記す。これに関連して、筆者がまだ20代のころに読んだミヒャエル・エンデ(ドイツの児童、幻想文学者)の言葉を思い出した。少し長くなるが引用する。
 「1945年以来、第3次世界大戦は起こりうるか、という問いが幾度も出た。わたしが思うに、わたしたちはもうそのまっただなかにいる。ただ、だれも気づかないだけで、なぜなら、この戦争は領土ではなく、時間の戦争だからだ。わたしたちは、わが子や孫に向かい、来る世代に対して、ようしゃない戦争を引き起こしてしまった。私たちは砂漠と化した世界を子孫に残すことになるだろう。子孫がそこで生きることはたやすいことではない。だが、子孫は応戦できないから、わたしたちはこのままさらに進めていく。もはや、これ以外のことはできない。そして、(黙らせることができないなら)こう聞かせて良心をなだめるのだ。わたしたちが行ったひどいことを償うために、子孫は何か思いつくに違いない、と。」(エンデのメモ箱(上)、田村都志夫訳、岩波書店)
 これが出版されたのは1980年代中頃であったから、CO2問題はまだ社会的に大きな問題にはなっていなかったと思う。ただ、エンデは人間の活動が後世の地球に与える負の遺産について強く警告している。「大人たち」はだいぶ前から気づいていたのだ。でも、「子孫は応戦できな」かっただけだ。今は違う。子孫は反撃する。第3次世界大戦はすでに始まっていたが、エンデが語ったような、「大人たち」からの一方的な戦争ではなくなった。これを最終戦争にしてはならない。「大人」はもっと真摯に彼らの意見に耳を傾け、彼らとともに困難な課題の解決に取り組まねばならない。