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コラム

火入れ式
Firing ceremony
飯島 晃良
Akira IIJIMA
本誌編集委員 / 日本大学
JSAE ER Editorial Committee / Nihon University

 自動車のイグニッションキーを回せば、当たり前のようにエンジンが始動する。近頃は、イグニッションキーを回す機会すら減り、ブレーキを踏んで始動ボタンを押せばエンジンが始動する。エンジンがかからないということは普通のエンジンではまず起こらない。
 普段、かかるべきエンジンが始動することには感動は覚えないかも知れない。一方で、かからないエンジンに火が入ると、感動するものである。
 火花点火機関が安定して燃焼運転をするためには、以下の三つが整っていることが重要だとされる。

(1) 十分な圧縮圧力
(2) 適正な空燃比の混合気の供給
(3) 適正なタイミングと強度の点火火花

 筆者が育った環境では、農機、作業機、オートバイなど、身近に手軽なエンジンがたくさんあった。高校生になるころには、倉庫に眠っている動かなくなったエンジンを持ってきては、古くなったガソリンの匂いを嗅ぎながら、修理をして遊んでいた。もっとも、修理というほどのことではなく、たいがいはキャブレターと点火プラグ洗浄、ガソリンとオイル交換でかかるようになる。倉庫に眠っていたエンジンに火が入ると、結構嬉しいものである。それから今に至るまで、エンジンが関係する学校に行き、エンジンが関係する仕事に就くことになった。

 大学院生の時に、2ストロークエンジンを用いた自着火燃焼(日本クリーンエンジン研究所の活性熱雰囲気燃焼ATAC: Active Thermo-Atmosphere Combustion、ホンダのAR燃焼(Activated Radicals)などとして知られている)と、4ストロークの高圧縮比HCCI燃焼の運転特性が大きく異なることに疑問を持ち、同じエンジンでこれらの比較を行うことを始めた。2ストロークエンジンを使って、4ストロークのHCCI(高圧縮比、低残留ガス)を模擬することで比較を試みた。これらの燃焼は、上記で示した「(2) 適正な空燃比の混合気の供給」と「(3) 適正なタイミングと強度の点火火花」が欠けている。(3)の代わりに、ピストンの圧縮等で混合気を自着火させることになる。火花点火をONの状態で機関を運転し、自着火燃焼を起こして火花点火をOFFにするわけである。2ストロークの自着火燃焼は、低負荷高速域で、多量の高温残留ガスの影響を受けて運転が成立している。そのため、その運転領域に突入しないと安定運転は行われない。
 大きなサイクル間燃焼変動(不整燃焼)を伴う2ストロークエンジンの音を聞きつつ、オシロスコープで指圧波形を見ながら回転速度と燃料投入量と排気絞りなどを調整しながら、ここだと思ったところで点火をOFFにする。そうすると失火してエンジンがストールしそうになるので、また点火をONにして正しい運転領域を探す。このようなことをやっていると、そのうち音や指圧波形や排気温度などで明らかに運転状態が変わるのが分かってくる。そこで点火をOFFにしてもエンジンの運転状態は変化せずに、安定して2ストロークの自着火燃焼運転が行われれば火入れ成功である。その前の不整燃焼が嘘のように安定して回る様には、やはり感動を覚えた。
 エンジンに火を入れてその様子を五感で感じることは、大変重要なことだと個人的には思っている(新しい燃焼コンセプトが生み出されるときには、その発明者の第六感も働いているのではないかとも思う)。
 研究室の学生たちにも、それらの感覚を味わってもらいたいと思い、研究テーマの中にはエンジンの試作や未知の領域の燃焼を探る行為を伴うものを入れるように心がけている。試作したエンジンや装置でエンジンが回るまでには苦労をすることが多いが、回った時の感動は強く印象に残る。その体験が研究意欲の向上にもつながる。一例として、学生が設計製作して構築した「2ストローク高速可視化エンジン」の運転動画を図1に示す。このエンジンは、ボア全面を可視化した状態で現状7500 rpm程度のファイアリング運転ができるものである。このような運転領域での火炎伝播、ノックなどを調べるのに使っている。
 このように、エンジンの実験的研究をする上で、最初に“火入れ”を体験することが有用だと考え、これからもこの取り組みを続けていきたいと考えている。

Fig.1 2ストローク高速可視化エンジンの運転動画[動画*]
* 音が出ますので音量にご注意ください