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コラム

パンデミックと人の移動
Pandemic and Human Mobility
大西 浩二
Koji ONISHI
本誌編集委員 / 日立Astemo(株)
JSAE ER Editorial Committee / Hitachi Astemo, Ltd.

 新型コロナウイルスの流行が始まってから1年以上経って、我々の生活はそれ以前とは一変してしまった。人の移動が制限されたために自技会のイベントもほとんどがオンライン開催だ。このエンジンレビュー誌の編集委員会も昨年からオンラインになってしまい、楽しみだった終了後の懇親会で委員の皆さんからためになる話を伺う機会がなくなってつまらない。

 もちろん日本だけでなく世界中で人間の移動が激減している。この間までジェット旅客機に乗って世界中どこへでも行き来できたことが嘘のようだ。しかし考えてみれば動力付きの乗り物がこの世に現れたのはたかだか二百数十年前のことであって、これは人類の歴史全体からすればついこの間の出来事だろう。画期的な利便装置はそれ以来エネルギーを大量に消費しながら陸海空(宇宙空間まで!)に増殖の一途をたどり、世界中に十数億台の自動車が存在するに至った。動力付き交通機関の発達が可能にした大量で自由な人間の移動が今回の新型コロナウイルス拡大を引き起こしたことは間違いないし、北米や西ヨーロッパなどの「先進地域」でとりわけそのスピードが速かったことのひとつの要因でもあるだろう。

 一方で将来の方向に目を向けると、交通機関がこのままのペースで量的な発展を続けられると考える人は少ないだろう。現代の我々は蒸気船やガソリン自動車を産みだした時代の人々のようには無邪気でいられない。地球上の資源が有限であることに気づいてしまったし、地球規模の気候変動を観測してそれが自分たちの生活を脅かす可能性があることも知った。天然資源の入手にしたって、力の強い者がやらずぶったくりで収奪するようなことはおおっぴらにはできなくなっている。

 今回の移動量の落ち込みは、ワクチン接種や治療薬の開発が進んでコロナウイルスの流行が収まれば一旦はもとに戻るのかもしれない。しかし資源が有限である以上、いつかは人の移動について必要不可欠なものと、なくても何とかなるものに分別する必要が出てくるだろう。我々は今それを先取りした実験をしているような気がする。