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コラム

「親ばか」とは共通遺伝子?
村中 重夫
Shigeo MURANAKA

 昨日、家内の主宰する室内楽合奏団の定期演奏会に出かけた。プログラム、チラシ、コロナ対策グッズ等色々スーツケースに詰めて車のトランクへ。
 メインプログラムはモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調K.364」、この曲はモーツァルトの多くの名曲中の一つとされている。ヴィオラが活躍する数少ない曲の一つでヴィオラ奏者にとって貴重なレパートリーになっている。
 この曲の名盤として、1963年録音のダヴィッド オイストラフ、イーゴリ オイストラフ親子のものがあり、私もLP、CDの両方を持っている。親のダヴィッド オイストラフはご存じの方が多いと思うが20世紀最高のヴァイオリン奏者である。この父のほうがVa(ヴィオラ)を弾き、息子がVn(ヴァイオリン)を弾いている。
 ここからが独断と偏見になるが、聴くたびに思うのが両者のレベル差である。
 第三楽章ではVnとVaが1オクターブ違いで同じメロディーを交互に弾くところが続くがここで違いが明白。親(Va)の方は悠揚迫らず、美音でたっぷりうたって、速いパッセージもあせらず騒がず余裕をもって完璧にこなす。
 これに対し子(Vn)の方はずっと追いかけられているような焦り、強迫観念まで伝わるような弾きぶりである。息子もコンクール優勝歴のある腕であるが、秒単位で交互に弾けば差はくっきりでる。
 そこで疑問がわくのはどうしてVnの世界一がVnを息子に弾かせて、自分はVaなのかである。今ならVnとVaを多重録音すれば世界最高の名盤間違いなしのところを。
 親として息子に機会を与えているのかな?というのが私の息子がプロの音楽家になる前はそれぐらいしか思いつかなかった。しかし息子が高一から数年前まで家内の合奏団のチェロ奏者として弾くのを聴いて、長く聴いてきた家内のVnには感じなかった親和性に気が付いた。すなわち演奏の緩急強弱を含め歌い方が私のイメージ通りなのである。
 親ばかとはこのことかと思ったりしたが、冷静に考えると、これは遺伝子の共鳴であると考えると腑に落ちた。遺伝的には家内は赤の他人、息子は二分の一が共通である。高校、大学の卒業演奏会を聴いた後の帰り道、家内と二人で息子が一番良かったなと言いながら、ほかの両親もうちの子が一番良かったと思っているだろうなと想像したものである。

 

 上述の疑問も、ダヴィッド オイストラフも息子の演奏を、自分のイメージ通りで本人も弾きやすいと感じてVnを息子に弾かせたのではないか、すなわち共通遺伝子が親子共演を導いたと今は思っている。