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コラム

変わること、変わらないこと
-2022年秋季大会に参加して-
鈴木 央一
Hisakazu SUZUKI
(独)自動車技術総合機構
National Agency for Automobile and Land Transport Technology

  2014年に「変わるもの、変わらないもの」というタイトルで本コラムを書いた(1)。その時は春季大会に初参加した時から22年経過した時間を俯瞰して感慨を述べた。そこから8年たったわけだが、ここ数年のコロナ禍と温暖化問題を契機とした自動車電動化の問題は、2014年時点で想像もつかないくらい社会を、技術動向を、人の意識を大きく変化させたといっていい。
 そんな中、2022年自動車技術会秋季大会に参加した。コロナ禍以降現地とリモート参加のハイブリッド形式となっているが、その形態となってから現地で参加するのは初めてである。コロナ禍であっても急速に進んでいる電動化の流れの中、久しぶりの現地参加で以前と何が変わるだろうか。
 そんな思いを持って「新開発エンジン」セッションを聴講した。「新開発エンジン」では、各社最新モデルに搭載されたエンジンにおける高効率化技術や制御技術、排出ガス低減技術などが紹介され、多くの参加者が集まり活発な質疑応答が行われるセッションである。セッション開始の割と直前に会場に入って驚いた。コロナ禍で席の間隔を空け、座席数が以前の半数以下となっていることから立ち見もありうる、と思っていたものが、その少ない座席数のさらに半数くらいしか埋まっていなかったのだ。内燃機関はそこまで人気が落ちたのか、あるいは講演内容に魅力がないからか・・・少なくとも後者はない。本セッションではマツダが6気筒ディーゼルエンジンについて燃焼制御からマイルドハイブリッド機構にわたって詳細に発表したほか、ホンダは圧縮比13.9という高効率ハイブリッド車用エンジン、日産からはe-power用の可変圧縮比ターボエンジンなど、いずれも各メーカーの屋台骨を支える主力車種に搭載される力のこもったエンジンで、エンジン屋であれば血沸き肉躍る!?ような興味深い内容だ。
 講演としてはどうなのか。聴講者は少ないものの、内容は期待を裏切らない質の高いものだ。その後の質疑応答は・・・私自身座長を何度か受け持った経験があるが、講演後の質問などがどの程度あるか、は聴講者数とかなり相関があり、聴講者が少ない、ということは活発な議論を演出したい座長にとって苦慮することが多い・・・今回はどうか? 
 注目してみていると、会場からもリモート参加者からも質問は次から次へと出た。平均して講演1件あたり5件以上にもなっただろうか。こうした発表に対する質疑は、個別技術に深く切り込んだ具体的なものが多く、質問者側もエンジン開発の当事者で当人の興味を持つ分野について質問していると感じられる。最新エンジンの開発要素となると、ガチ競争領域である。質問する側も「差支えない範囲で・・・」といった言葉を選んだ質問になるし、答える側も基本オープンな姿勢ではあるものの、内容によっては「具体的数値については回答を差し控えたい」といったケースもある。
 こうしたやり取りは、以前200人以上入る会議室で立ち見まで出た「密」な熱気にあふれた会場で見たものと全く変わりなかった。直接的な聴講者数は減ったものの、多くは開発をやっているだろうセッション参加者の熱意や議論の質は全く変わっていなかった。捨てたものではない、と思った。
 その一方で、私自身が国際基準調和活動の中で行われている電動車の環境性能に関する基準の検討(国連WP29のGRPEにおけるEVEインフォーマルグループ)に参画していることもあって「蓄電池」のセッションも聴講した。電気自動車(EV)においてはバッテリが性能も価格も大きく左右するキーテクノロジーといっていい。今どきの電動化の流れもあって、新開発エンジンを大きく上回るだろう聴講者を集めていた。その中には、かつてエンジン関係の仕事をしていて知った顔も少なくなかった。それを見て思った。軸足を内燃機関に置きつつも、これからを考えたときにバッテリやEVに関する最新情報を得ておきたい、と思って参加している人(私もその一人といっていい)が少なからずいて、満席になっているのだろう。それに対して、逆の動機で新開発エンジンを聴講した人はごくわずかだと思われ、参加者数の差になったとみられる。EV化への「風」がその結果を生んだといっていい。その風の強さや向きがどうなるのかは様々な可能性があると思うが、内燃機関も進化を続けて広い分野で質の高い活発な議論が行われる学会の良さは今後も維持されて欲しいと願う。
 ※本稿におけるセッションの参加者数は、現地でみたものであり、web参加者を考慮していない点にご注意ください。

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【参考文献】
(1)エンジンレビューVol.4、 No.4、 https://www.jsae.or.jp/engine_rev/docu/enginereview_04_04.pdf