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事務局だより

JSAE島田
ゲーミフィケーション
Gamification
島田 和弥
Kazuya SHIMADA
JSAE事務局
JSAE Secretariat

 自動車技術会の事務局は、東京都千代田区五番町の10番地にある。すぐ近くの7番地には、囲碁の総本山「日本棋院」がある。距離にしてわずか300メートルほどだ。

 そんな立地の恩恵を受けて、自技会事務局員の私は、昼休みにふらりと日本棋院を訪ね、囲碁グッズや面白そうな棋書を物色するのがちょっとした楽しみになっている。中でも詰碁集はつい手が伸びてしまい、気になる一冊を見つけては購入している。

 買った詰碁は、iPadの「EasyGo Pro」というアプリに入力しておき、囲碁好きの子どもに解かせている。自由に問題を作成できる便利なアプリで、子ども用にせっせと詰碁を作っていたら、いつの間にか問題数が2000問を超えていた。ある日、その話をママ友にしたら、「それはちょっとやりすぎでは‥‥」と少し引かれてしまった。

 昔なら、詰碁の練習といえば書籍で黙々と取り組むのが主流だったが、タブレットを使えば正解・不正解を瞬時にフィードバックしてくれるし、問題をどんどん解いていける。「ピンポーン!」「ブブー!」というテンポの良い反応があるおかげで、ゲームのような感覚で学べるのだ。こうした方式を我が家では「高速周回」と呼び、毎日の習慣として楽しんでいる。

Movie 1 高速周回

 このように、学習にゲーム的な要素を取り入れる手法は「ゲーミフィケーション」と呼ばれており、近年スマートフォンやアプリの普及とともに広がってきたアプローチのようだ。

 ちなみに、うちの子は囲碁だけでなく、ボードゲーム全般が大好きだ。将棋も好きだし、トランプもすごろくも、人生ゲームも好き。けれど、将棋だけはなかなか上達しない。詰将棋にも取り組ませてみたのだが、いまひとつピンときていないようで、AIとの対局でも駒をあっちに動かしこっちに戻し‥‥と、どうにも冴えない。

 アプリで何か良いものはないかとAppleストアを探してみたが、将棋に関してはなかなか「これだ!」と思えるものに出会えなかった。

 そんな中、最近になって語学学習アプリのDuolingoに、なぜか「Chess(チェス)」の新コースが登場した。Duolingoといえば、ゲーミフィケーションの理論を語学学習に取り入れ、大人から子どもまで人気を集めているアプリである。うちの子も、これで英語やフランス語、さらには音楽まで勉強している。

 Duolingoがなぜチェスに進出したのかは分からないが、ゲームとしての相性の良さや、世界中に7億人以上いるとされるプレイヤー人口の多さが、その背景にあるのだろう。

「将棋に似てるし、Duolingoにチェスのコースができたよ」と勧めてみたところ、子どもはすっかり夢中になった。私も試してみたらすっかりハマってしまい、子どもと二人でDuolingoのファミリープランに加入して、今では親子でチェスに夢中になっている。最近まで囲碁一筋だったのに、親子そろってチェスにハマってしまい、囲碁の先生に「チェスに浮気した」と思われていないかと、少しバツが悪い気持ちにもなる。とはいえ、囲碁の高速周回は今も日課として続けているので、どうか囲碁界隈の皆さまには温かく見守っていただきたい。

 ちなみにDuolingoでは、AIを教材開発にも活用しており、そのおかげで新しいコースのスピーディなリリースが実現しているらしい。アプリ内にもAIとの会話機能などが搭載されていて、なるほどAI活用の最前線といった印象だ。

 こうした新しいデバイスやアプリを使った学習は、テンポよく繰り返し学べる点で非常に効果的だと感じている。特に子どものように集中力が続きにくい世代にとって、ゲーム感覚で取り組めるのは大きな魅力だ。

 ただ一方で、当然ながらアプリだけでは補えない部分もある。たとえば囲碁の詰碁でも、「なぜこの手が最善なのか」「他の手ではなぜいけないのか」といった根本的な理解までは、アプリが教えてくれるわけではない。プログラムによって正解・不正解の判定はされるものの、その理由までは説明してくれない。

 だからこそ、リアルな先生の存在は非常に重要だと感じている。ベストな手を選ぶ理由、逆に失敗手となる根拠を、言葉で丁寧に説明してくれる。子どもが通っている囲碁塾では、先生が一手一手の意味をしっかりと伝えてくれるおかげで、理解が深まり、考える力が育まれているのを実感する。

 チェスのように国内では指導環境が限られている競技では、こうした「人による学び」を得るのが難しいという課題もある。だからこそ、アプリの手軽さと先生による丁寧な指導の両方をうまく取り入れつつ、これからも子どもと一緒に楽しみながら、学びを広げていけたらいいなと思っている。

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