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6 EV・HEV関連

 今大会の電動車両関連セッションは,”xEV”3セッション,EV/HEV主機用モータ,蓄電システム,ワイヤレス電力伝送,走行中給・充電,自動車用燃料電池2セッションの9セッションのほか,動力伝達系,ITSのセッションでも複数のEV・HEV関連発表があった.また,ワイヤレス給電/走行中給電に関してはフォーラムも開催され,電動車両関連の発表数の多さが目立ったが,継続中の研究の経過を紹介するものも多かった.

6.1 EVバス

 大型車両のEV化は対象車両の数の少なさに加え,貨物車では利用形態に合わせた作り込みが常識であるなど,コンポーネントを含めて量産化の効果が期待できないために大幅に遅れている.
 松田(6-1)らは,既に量産体制のとられている乗用車用のコンポーネントや技術をできるだけ利用することで,既存のディーゼルバス+1000万円の低価格で路線バスとして十分な実用性を持ったEVバスを不特定の車両工場で生産可能とすることを目的とした環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」プロジェクトについて,2016,2017年秋季大会で概要と経過について紹介してきた.今回,プロジェクトの完了に伴い,開発したEVバスとその実証評価結果について紹介した. EVバス製造手法の概要は,図6-1に示す様に量産乗用車の電池とモータを利用してEVバス用の標準的な電池システムと駆動システムを用意し,これにEVバス特有の制御や補機を用意することで,EVの優位さを確保した上で,現在の路線バスの運用形態にそのまま適用できる車両を製造するものである.

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 要求される最大駆動出力を,既存路線バスの諸元値,走行データ,路面勾配などから170kW程度とし,8%の駆動系ロスを前提にモータ最大出力を190kWと定めた.図6-2の一日走行での駆動力のリサージュ例からも妥当性が推測できる.路線バスの12~16時間の営業時間中4~5時間程度の車庫駐車時間,連続走行は50km未満が一般的であるので,バッテリー容量は50kmの走行をカバー出来る120kWhを標準とし,2回の急速充電を想定している.

 電池システムは図6-3に示すように,30kWhのパック4個(2018年度からは40kWhが入手可能)を並列接続し,3パックのBMSがslave動作することで,一つのシステムとして動作する形態をとっている.

 EV用の量産モータ2個を図6-4に示すようにタンデムに減速機で連結することで190kWのモータを実現した.クーラーやエアコンプレサーはエンジン駆動のものをそのまま流用することとし,モータで駆動するシステムを採用した(暖房はPTCヒータを採用).

 EVシステムとしては,図6-5に示す様にこれらサブシステムを車両制御装置で統括制御する方法をとっている.路線バス減速時の減速度の頻度分布は,図6-6に示す様に0.1G未満がほとんどであることから,減速度が0~0.1Gの範囲では市販EVで採用されているアクセルペダルによる回生制動を採用して,運転のなめらかさと回生効率の向上を図っている(同様に.巡航時の無駄な加減速を排除する制御も採用している模様).車両への各コンポーネントのレイアウトは,種々の既存路線バス車体に対応出来る図6-7を標準として提案している

 開発された車両を用いて熊本市近郊の図6-8に示す路線で運転者を含めて通常のスケジュール下で実証試験が行われた(一日6回運行,117km/日,総走行距離16.562km,冬季の暖房時でも電池容量に余裕があることが判明したため3パックで運用).運転手や利用客へのアンケート結果では,充電時の操作の簡単化を望む声以外には,概ね良好な反応であったとしている.実用時の平均電費は0.908km/kWhで,概ね良好であるが,電力消費に占める走行以外の消費(空調等)の大きさは図6-9に示すとおり,季節によっては走行に要する値に近くなり興味深い(電動車両には走行時の高効率化と同様,空調等の高効率化が望まれているのが現状).

 一方,走行に供される電力に対して回生で得られる電力は図6-10に示す様に4割近い例が多く,アクセルペダルによる回生を優先したブレーキ動作による効果と考えられるとしている.搭載電池容量の適否については,図6-11の運航日毎の電池のSOCの最低値が示すとおり、最低値でも20%強であり,設計時に計画した値と同等で,十分実用に供しうるとしている
 暖房にPTCヒータを使用しているが,実用的である20℃を確保出来たとしているが,これらは熊本市近郊での使用実績であるので,別の地域での結果を類推し,妥当性を検討する必要がある.今回の車両では既存の変速機を4速に固定した状態で変速なしで運用している.路線は比較的平坦なルート(最大勾配6%)であったが,この範囲では特に問題が生じていない.次のステップでは横浜市での実証試験を予定しており,ここでは減速比や電池容量の妥当性について検討するとの紹介があった.(清水)

6.2 蓄電・充電関連

 EDLC(電気二重層式キャパシタ)は,高電流レートでの回生エネルギーの吸収が可能であり,物理現象によることから電池に比べて安定であるが,動作電圧が低いことと静電容量に関係する活性炭の表面積も理論上限界に来ていることから大幅なエネルギー密度の改善が期待できないのが現状である.湊ら(6-2)は,この様な現状を打破してエネルギー密度の向上を図って開発した二つの蓄電デバイスについて紹介した. Liイオンキャパシタ(LIC)のLiB電極としては安全性の高いチタン酸リチウム(LTO)が注目されているが電気伝導性が低いことやLiイオン拡散速度が遅いことから高電流レートでの特性に難があることが知られている.そこで5~20nm程度のナノ結晶LTO(nc-LTO)を開発し,ナノ結晶化によって前述の高レートでの特性の改善を図った.一つは負極にnc-LTOを用いたLICで図6-12の(b)に相当するもので,ナノハイブリッドキャパシタ(NHC)と呼ぶ.もう一つはこの正極に新規開発の高出力レドックス材料を用いた同図(c)のもので,第3世代キャパシタ(Gen. 3 Cap)と呼ぶ.これらの関係は図6-13に示す様に,出力密度を落とさずにエネルギー密度をそれぞれ3倍,15倍に向上したものとなる.

 試作したNHCの各種試験を実施し,期待した特性を満たすことを確認している.図6-14に示すとおり,通常のLTOを用いたLICは高電流レートで容量が低下するが,nc-LTOを用いたNHCではその低下が大幅に改善されることが確認出来た.エネルギー密度はEDLCの4.2Wh/Lに対してNHCは13Wh/Lで約3倍が確保された.

 試作したGen. 3 CapとLIB,EDLCのラゴンプロット(出力密度とエネルギー密度の関係を示す図)を図6-15に示す.Gen. 3 CapはLIBと同様の70Wh/Lのエネルギー密度を確保しつつ,EDLCと同程度の高レートでの特性を確保出来ていることが分かる.低温時の特性は,図6-16に示すとおり,LIBよりも高い容量と低い内部抵抗値を示しており,LIBより有利であるが,50℃での充放電試験(図6-17)ではLIBと同程度の容量維持に留まっている.

 電動車両用ではないが,ICEVの省エネ対策の一つであるアイドルストップ機能の普及によって,鉛酸電池にも従来の電池とは異なる要求があり,これに対応するためにセパレータの工夫で対応し,良い結果が得られていることがMiyake(6-3)らから紹介された.従来の鉛電池はエンジン始動時の放電以降は常に充電状態にあり,やや過充電気味の状態で使用されてきた.そのため緩いガッシングによって電解液が循環し電解液の濃度が電解槽内で均一になっていた.これに対しアイドルストップシステム車(ISS)では図6-18に示す様に,頻繁なエンジン停止と再始動によって電池のSOCが低位にある状態となったため,ガッシングの機会がなくなり,電解液濃度の層状化(上部で濃度が低く,底部では濃くなる;図6-19参照)などによって電池性能の劣化・寿命の低下などの問題が発生し各種の対策が必要となっている.

 第一のキーは,リブを設けたセパレータの工夫によって,車両の発進停止の運動によって電解液の攪拌を実現しようとするものである.電解液の運動をPC上で模擬するモデルを作成し,セパレータの形状と車両の発進停止による電解液の挙動との関係を調べ,効果的な形状を求めている(2層に分離した状態から,車両の運動によってどのように攪拌されるかを確認;図6-20参照).広い実使用状態での挙動を把握する様々な努力を経て,図6-21に示す正極側に水平のリブを多数設け,負極側には多数の細孔を設けたセパレータを提案している.

 次に,ISS車では制動時の回生電力を効率よく受け入れる必要があるが,部分放電状態ではこの特性が低下することが知られており,この対策として市販電池では負極にカーボンを添加する方法が採用されている例もある.しかし,これによるデメリットとして水の減少とその結果としての寿命短縮が問題となっている.部分充放電動作で,一般のセパレータによる電池では負極が膨張し活物質の減少がみられる(図6-22参照)のに対し,提案する負極側に細孔を,正極側に多数のリブを設けたセパレータでは負極が均一に圧縮抵抗力を受けるので,この現象がみられず(図6-23参照),実際の試験で急速充電受け入れ性が30%改善したことが確認出来た(図6-24参照)としている.一方,カーボンが鉛結晶の増大化を阻止しているメカニズムを解析した結果,負極表面に接触するセパレータの表面をカーボンでコーティングすることで同様の結果が得られることを見いだし,試験によってこの考えの妥当性を確認している(図6-25参照).製造時の素材原価では5%以下しか占めないセパレータの工夫で,性能向上と寿命延伸を可能としたとしている.

 EVやPHEVが順調に普及した場合,その充電負荷が電力系統に与える影響と影響の改善方法が問題になって来ると考えられる.ITSのセッションで,この件に関する2件の発表があった.
 小田(6-4)らは,太陽光発電等の再生可能エネルギーの出力が増大した際に電力系統からのデマンドにEV充電が応じることを想定し,EV充電で対応可能な電力量を求める試みについて紹介した.自宅などでのいわゆる基礎充電場所に到着したEVのSOC(帰着時SOC)分布とEVユーザがSOCを参照して判断する充電の要否の関係を,EV利用者を対象に実施したアンケートから求めた.搭載電池の平均容量は20kWhで,出発時のSOCは平均80%(標準偏差:22.5),帰着時SOCは平均53%(標準偏差:21.4)で,全体の39%が充電の要否を帰宅時SOCで判断していた(36%は毎回充電.要否判断のSOCは数値で回答).この状態を基準ケースと呼ぶ. この充電判断基準SOCと帰着時SOCが正規分布を成すと仮定すると,累積頻度分布Fは式(1)で表される.

F=1-(1+e-α∙(SOC-β) ) -1 (1)

 ここに,αは図6-26に示すとおり累積分布の傾き,βは累積値が50%になるSOCとなる.ただし,帰着時SOCが10%以下の場合は,必ず充電するとし,式(1)の値によらず,F=1とする.充電と充電可能状態の頻度分布は図6-27に示すとおりで,帰着EVの5台に1台が平均約10kWhの充電をしていること,デマンドに応じて充電可能な量は1台あたり4.7kWh程度であることがわかる.

 将来,搭載電池容量が増加した場合(例えば40kWh),EVでの選択幅が広がることから,α,βの値として表1の最左列の組み合わせを追加し,2種のα値,3種のβ値を組み合わせた6シナリオの累積分布(図6-28,図6-29参照)について,帰着時に充電する頻度と充電可能ではあるが充電しない頻度,充電電力,充電可能電力を求めている.だだし,搭載電池容量が増加してもEVの走行需要に変化はないと仮定した.このため,搭載容量の違いによる帰着時SOCや充電判断基準SOCの整合性をとることを試みており,これによる4種によって計24シナリオが存在するが,充電電力量の大きさに矛盾が生じるケースなどを除外して,19シナリオについて検討し,図6-30に示す特徴的な4シナリオについて解説している.a) は基準ケースに準じたもの,b) は充電頻度が高くなるシナリオ,c) は逆に充電頻度が最小のシナリオ,d) は充電可能の電力が最大になるシナリオである.

 図6-31に各シナリオの充電可能電力の大きさと充電頻度の関係を示す.朱色の20kWh電池の基準ケースに対して,2倍の40kWh電池で充電頻度が高くなることはあり得ないので4シナリオの内(b)は不適当であるが,他の3シナリオはいずれも充電頻度が半分程度になり,充電可能電力が5kWhから8~15kWhへと約2~3倍に増加可能であることが示唆されるとして,搭載電池容量の増加がEVのデマンド対応能力を大きく高めることを示唆した.

 これに対して,鈴木(6-5)らはユーザの充電行動モデルを内包したEVの充電による電力系統への負荷を把握するシミュレータについて紹介し,これを用いたパラメータスタディから得られた知見についても紹介した.
 EVの充電需要モデルは,市販の量産EV(24kWh電池搭載)約11,000台のプローブデータで得られる,各EV毎のキーon/off時の時刻,GPS情報,SOC,旅行距離,充電時の時刻,継続時間,SOC,充電形態(普通/急速/V2H等)を統計処理して作成しており,自宅/職場は駐車時間帯と頻度から推定している.普通充電と急速充電の回数の比率から,ユーザは次の3形態に別れる.
①自宅の普通充電器を主に利用 普通充電の機会が90%以上
②自宅の普通充電器と急速充電器の併用 普通充電の機会が0~90%
③自宅普通充電器を使用せず 普通充電の機会が0%
普通充電器を使用しない③は,普通充電器の設置のない集合住宅等に居住するユーザと推測出来る.②は公共急速充電器の定額使い放題などに加入しているユーザと推測でき,特異な条件であるので,①と③のみに着目して解析している.旅行距離毎の急速充電の占める回数は,図6-32(①に対応),図6-33(③に対応)の様に,普通充電器の有無によって明らかな差がみられるので,両者を,図6-34のようにモデル化している(詳細は省略).

 自宅や職場で駐車時にどの様な状況でどの程度の頻度で充電するかも重要な情報であるので,両者へ駐車時の充電確率(図6-35参照)をユーザの行動特性として用意している.これらのユーザ行動特性は地域や曜日など,限定した条件下の特性にも対応できるとともに,行動特性を示す確率分布そのものを入力データとして入力できる構造となっており,種々の環境の変化に対応した柔軟なシミュレーションが可能であるとしている.

 このシミュレータを用いて様々な環境での電力負荷の挙動を検討している.2040年頃のEV化率35%時の,図6-36に示す東京電力管内の電力負荷の模擬結果は,帰宅後の普通充電の絶対量は小さいものの,ピークが家庭部門のピークと重なってしまい,住宅街の電力系統に影響を及ぼすことが予想される.負荷を夜間にシフトさせるための電力価格を設定した場合はピークのシフトができる反面,夜間の初期に新たなピークが発生することが推測されるが,日あたりの走行距離の短いユーザが一定のSOCを目処に充電する様に行動した場合ピークを2.2GW削減出来ると推測している.

 また,同時期にも集合住宅での普通充電ができない状態が解消されなかったとすると,必要な急速充電設備の設備費が実現不能な値になるため何らかの改善が必要であるが,職場での普通充電に振り替えることで急速充電のピークを抑えることが可能である(図6-37,図6-38参照)ことを示し,提案のシミュレータの有効性をうたっている.(清水)

6.3 モータ関連

 瀬口(6-6)は,2017年秋季大会で提案した永久磁石を用いない”自励式巻き線界磁型同期電動機” (6-7)の要であるロータ界磁巻線への給電方法について新たな提案を行った.ステータ巻き線電流に重畳させた高周波電流でロータ巻き線に誘起された電流を整流してロータを励磁するものであるが,給電方法を表2の左図から右図のものに変更している.従来の方法で給電したところ充分な電力の供給ができないことが判明し,その原因がコイルの各部の磁気的な特性が均一でないことによって局部的に誘起された電流が打ち消し合う可能性を見いだし,この影響を除去するために右図のLC共振回路による高効率化を図っている.試作ロータでの試験の結果,表3に示す様に,モータの出力トルクがパルス幅変調運転範囲で54Nm(目標値:60Nm),大電力駆動の矩形波運転範囲で40Nm(目標値:50Nm)が得られ,目標達成の可能性がみえてきたとしている.ただ,構造的に体格の大きなモータに有利であることから大型の回転機での検討を優先するとしている.(清水)

6.4 ワイヤレス給電・充電

 EVへのワイヤレス給・充電関連の発表は、2日目午前の「ワイヤレス電力伝送」と最終日の「走行中給・充電」の2つのセッションおよび2日目午後のフォーラム「EVへの給電システムの最新動向」であった。数年前までは静止中ワイヤレス給電での等価回路を使った効率論などの発表が多かったが、既に静止中ワイヤレス給電の研究は当たり前で走行中給電に研究対象が移りつつあるようで、「ワイヤレス電力伝送」セッションでの2編と「走行中給・充電」セッションの6編の計8編の発表が行われた。内閣府の戦略的イノベーションプログラムSIP-2にも走行中ワイヤレス給電が取り上げられていることもあり、走行中給電に絞って4編を紹介する。

 東京大学の居村らから「フェライトレスかつコンデンサレスコイルを用いた走行中給電システムの性能と舗装耐久性評価」の発表があった(6-8)。走行中給電を行う道路設備を設置するうえで重要な点は経済性である、走行中給電では送受電コイル間の磁界結合が変動するため、低結合時でも電力伝送できるよう送電側に多量の共振コンデンサを直並列に接続して耐電圧を上げるようにするので、コストがかかる。そこで、より簡易なシステム構成として地上側のコイルにオープン型の自己共振コイルを適用することで外付け共振コンデンサが無く、また磁束収束用のフェライトも無いワイヤレス給電システムとしている(図6-39)。

 電磁界解析シミュレーションにより、コイルをスパイラル形状の2層構造にすることで、85kHz帯で共振できる巻線長にしている。作成したコイルの地中埋設前後のインピーダンス特性測定(図6-40)や電力伝送実験結果から、地中埋設したコイルの抵抗値が上がりアスファルトに起因する誘電体損が見られるが、EVへ給電する際の伝送効率と電力は十分確保できた。

 自己共振コイル特有の2層式のため、溝を掘って這わせた導体の固定と保護目的の保持材としてポリスチレンフォームを2枚重ねる構造にし、コイルの周囲の保持材にほぞ継ぎを設けて固定するXPS型枠構造を採用した(図6-41)。

 舗装修繕時の5cm厚オーバーレイ実施を想定して8cmの深さにXPS型枠コイルを埋設し、舗装の構造評価に広く用いられている路面上に敷いたゴム製載荷板に一定の高さからおもりを落下させ路面の変形で支持力を計測する方法により舗装の妥当性を検討した結果、通常の舗装よりは耐久性が劣ることが明らかになった。試験時の舗装路の構造を図6-42に示す。今回の実験によりコイルを埋設した舗装のデータを得ており、今後の走行中給電システムの開発ではより強度の高いXPS型枠を設計することができる。

 ルンド大学のAlakülaらから「スウェーデンでの電気道路システム(ERS)- 開発と試験概要 -」の発表(6-9)があったが、これは続いてのスウェーデン運輸局Lindgrenによる「スウェーデンの電気道路システム技術」の発表(6-10)と対をなすものなので纏めて紹介する。これらは主として接触式走行中給電システムの発表であるが新しい走行中ワイヤレス給電システムの話もあり、接触式と非接触式の比較のため取り上げた。
 Alakülaからは、スウェーデンで開発、公道で実証されている以下に示す4つの異なる電気道路システム(ERS)とイスラエルのElectreon Wireless LTDにより開発されたワイヤレス給電システムの紹介が詳しくあった。
1)Siemens eHighway:上空の架空線から給電するシステム
2)Alstom APS:元々路面電車用に開発されたシステムの応用で、路面に3条の板状電極を敷設
3)Elways:Alstom APSと似ているが道路内に溝状の電極を敷設するシステム
4)Elonroad:道路上に蒲鉾状の電極を敷設するシステムで非常に短いセグメントを使用
5)Electreon:1~4の接触式ERSではなく非接触の走行中ワイヤレス給電システム
上記のうち接触式の4方式について、構造、安全、集電方法および現在各地で実証されている状況を詳しく述べたうえで、その特徴を表4にまとめ、大型トラック、バス、乗用車で使える方式にチェックを入れている。ワイヤレス給電のElectreonは2019年4月にスウェーデン交通局からスウェーデンのゴットランド島でのテストコース(図6-43)建設の承認が出たばかりで、情報が少ないため表には入れていない。

 スウェーデン交通局は、20~30kmの距離をカバーする、より大規模な公共道路でのERSの実施を目指し、現在まで5か所のデモを行う候補地を決め、そのうち1~3か所で実施することを2019年6月に決めると言うことである。これらを受けスウェーデン交通局のLindgrenが接触式ERSの課題をいくつか挙げたが、架空線と地上設置電極共通の課題は,
• 冬期
• 集電子の摩耗
であり、冬期に架空線での課題は架線および水平支持ビームに積もった雪の落下による通行車両への安全対応、地上設置電極の課題は積雪対応用の融雪ヒーターのランニングコストおよび道路維持管理に使用される融雪用の塩に対する感受性であり、特に塩水対策は現状技術に対しての更なる改善とテストおよび検証が必要である。
 走行中給電のデモ第3段階は2019年初夏に始まり、2022年に暫定的に終了するプロジェクトで、その重要な目標は公道で少なくとも2回の冬季の運用環境を確保することである。実施場所については3か所を予定し、接触式2か所、非接触式1か所である。場所の公表は2019年6月以降を目標にしている。

 日本自動車研究所の島村から「走行中給電による電動フルトレーラシステムのC02削減効果」 の発表(6-11)があった。
島村らはトラック輸送でのC02削減を目指し、既存のディーゼルトラックに電動式フルトレーラを連結することで全体としてハイブリッド車とするコンセプトの試作車を開発し、性能的に問題がないこと、またこのシステムが高速道路を走行する場合の燃料消費率を求めるシミュレーションプログラムを開発したことを2011年春季大会で発表した(6-12)。しかし、この電動フルトレーラシステムでは、コスト面から最小限のバッテリしか搭載していなかったため、バッテリ残量が不足し、走行性能が低下する課題があった。
 本論文では、図6-44のように登坂車線において上部から走行中給電を行うことでバッテリ残量不足を補い、降坂時には回生しても電池が高SOCで受け入れられない状態でも走行中給電システムに回生電力を戻すことで供給電力量を減少させるシステムを検討した。

 シミュレーションにより、東名高速道路の東京~名古屋間347kmで勾配3%以上の登坂車線18.7kmに走行中給電システムを設置し、目標車速80km/h、定積載で走行させた場合に、供給電力に対して荷物1トンの輸送で排出されたC02排出量の削減率を算出した(図6-45)。

 走行中給電電力200~300kWの範囲で約2%のC02排出量削減効果が期待できる。この出力域で削減効果が最大になる理由は、モータ出力が200kWのため走行中給電で得られた電力をバッテリを介さずそのままモータから出力でき、充放電効率分だけ効率が向上したためである。なお、降坂時に余剰回生エネルギを走行中給電システムに回収させることも検討したが、それほど余剰エネルギが無いこともわかった。(高橋)

【参考文献】
(6-1) 松田俊郎,宮崎信也,福沢達弘,水越篤志,辻 俊孝,阿部圭太,井部精治,原勇太朗,田中颯馬:EVバストラックの普及拡大を可能とする大型車用EVシステムの技術開発と実証評価,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195154
(6-2) 湊 啓祐,石本修一,爪田 覚,仲秋健太郎,玉光賢次:入力特性に優れたエネルギー回生システム用蓄電デバイス:自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195354
(6-3) Naoto Miyake, John Kevin Whear:Novel Lead Acid Battery Separators to Meet New Market Needs, 2019 JSAE Annual Congress (Spring), No. 20195353
(6-4) 小田拓也,前川隆文,渡辺陽子:EVを用いたデマンドレスポンスのための充電可能量の推定手法:自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195189
(6-5) 鈴木健太,村井謙介,池添圭吾,志村泰知:EV大量普及が電力系統へ与える影響について,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195190
(6-6) 瀬口正弘:自励式巻線界磁型同期電動機,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195296
(6-7) 自動車技術会 2017 年秋季大会:エンジンレビュー,Vol. 8, No. 6, pp. 16(7. EV・HEV 関連)
(6-8) 居村岳広,高橋芳明,畑 勝裕,藤本博志,堀 洋一,塚本真也:フェライトレスかつコンデンサレスコイルを用いた走行中給電システムの性能と舗装耐久性評価に関する基礎検討,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195206
(6-9) M. Alaküla, F. J. Márquez-Fernández: Conductive Electric Road Systems (ERS) in Sweden,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195359
(6-10) M. Lindgren: Electric road system technologies in Sweden,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195360
(6-11) 島村和樹:走行中給電による電動フルトレーラシステムのC02削減効果,自動車技術会 2019年春季大会学術講演会講演予稿集,No. 20195361
(6-12) 特集:自動車技術会 2011年秋季大会:エンジンレビュー,Vol. 1, No. 2, pp. 9(5. EV・HEV)