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Vol.10 No.7

1 CO2低減に向けた輸送用トラックの技術開発
Reducing CO2 emissions from heavy-duty vehicles.
鈴木 滋(日野自動車株式会社 製品開発部)、杉原 啓之(日野自動車株式会社 エンジン設計部)、石森 崇(日野自動車株式会社 技術統括部)
Sigeru SUZUKI(Hino Motors, Ltd.), Hiroyuki SUGIHARA(Hino Motors, Ltd.), Takashi ISHIMORI(Hino Motors, Ltd.)

はじめに

 輸送用トラックは、環境に優しく、効率的かつ正確な時間に荷物を目的地に届けるという生産財として重要な使命を担っている。また、昨今の地球温暖化やエネルギー問題といった地球規模の課題に対して社会全体が向き合う中で、トラックの動力源に求められる効率および環境性能の重要性が増している。同時に、ここ数年はITの普及に伴い、小口配送が急増したことを背景に、荷役作業性や運転操作性といったトラックとして幅広い用途を考慮した利便性の改善など、環境変化に連動して多くの創意工夫が求められている。本稿ではこうしたトラックに課せられた課題に対して、特にCO2低減を目的とした動力源の取り組みを中心に最新技術の一部を紹介する。

輸送用トラックの効率向上の歴史と今後の方向性
商用車の種類と特徴

 輸送用トラックには大変幅広い車種や用途があり、大別すると、移動距離とその車が積むことが出来る積載量で表すことが分かりやすく、図1-1に示すとおり右上が長距離大量輸送の大型トラックやトレーラ、左下が近距離の決められた範囲を繰り返し届ける小型トラック、その中間に比較的高速走行頻度が高い中距離走行用の中型トラックが製品としては準備されており、多くの用途と車両がある事が分かる。

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トラック用エンジン性能向上の歴史

 輸送用トラックには燃焼効率が高く、経済的なディーゼルエンジンが主流であり、歴史的には排出ガスのクリーン化、騒音の低減、更には効率の向上による燃費改善努力が積み上げられて現在に至っている。図1-2にトラック用ディーゼルエンジン排気量と出力の変遷を示す。1970年代は、自然吸気方式がエンジンの主流であったが、1980年代から吸気冷却式過給機を備えた小排気量化、併せて燃焼技術や燃料噴射システムの画期的な改善努力が重ねられたことにより、結果として、約1/2の排気量でありながら、同等の出力性能を確保できるエンジンが登場し、近年ではそうした技術が量産の主流となる進展があった。現在も、燃焼技術の更なる改善に加え二段過給、制御技術など絶え間ない熱効率の改善努力が積み上げられており、現状では40~45%が一般的であるエンジンの熱効率を55%まで向上させる研究も世界の専門メーカー共通の目標として積極的に進められている。

CO2低減の重要性

 気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)にて日本は2030年度までに年間CO2排出量を2013年度比26.0%削減とする目標案を国連に提出した。図1-3に示すとおり、日本国内のCO2総排出量に対する運輸部門は17%を超え、そのうち約4割を貨物自動車が占めていることから、削減目標達成には新たな車両の改良は勿論のこと、物流事業全体で総合的な取り組みが必要となる。更に、欧州では2019年2月、欧州議会と理事会がEUレベルで初となるトラックやバス等の重量車に対するCO2排出規制案(新車のCO2排出量を2030年までに2019年に比べて平均30%削減する)に暫定合意した。こうした厳しい目標が、世界各国で検討される中、輸送用トラックとして対応すべき研究開発が一層重要視される状況にある。

CO2低減を見据えたトラック用動力源の技術開発

 図1-4はパワートレーン技術のロードマップを示す。中長距離輸送のトラックにとって欠かすことが出来ないディーゼルエンジンには更なる効率向上が一層重要となり、専門メーカーの努力が期待される。
 一方、1990年代から電動化の先駆けとして、発進停止頻度の高いバスや小型トラックに採用されてきたハイブリッド技術が、近年大型トラックに拡大し、CO2低減効果が注目されている。また、BEVを代表とする電動化技術も各種用途に合わせ地道な実証実験を行っている。走行可能距離や充電時間といった課題を解決すべく、新技術の開発が着実に進んでいる。同じく、エネルギー密度の高い軽油に代わり、将来の水素社会への先駆けとして、燃料電池を搭載した小型、大型トラック開発も着手しており、水素供給インフラ含めた実証試験に注目を集めている。この他、LNGなどの液体燃料やバイオなど代替燃料も地道に研究が行われている。

電動化の技術開発と課題

 図1-5は様々な形態の電動アクスルの例を示す。車両総重量が乗用車より一桁以上重いが、生産量は一桁以上少ないというトラックではコスト面への配慮から既存モータを流用することが望ましいが、モータのトルク特性や効率が必ずしもトラックの使い方に合わない場合も多く、そのために動力伝達系に変速機を含む複雑な減速機が入り、伝達効率が低下するなど技術的な課題が多い。
 また、日本の場合、電圧が750Vを超えると電気事業法上高圧扱いとなるため、750V以下の仕様となり電流値が増大して効率向上の壁となるなど法規上の課題もある。トラックでの使われ方に合わせたモータや変速機の開発は、そうした効率改善のひとつの鍵となる。
 電動化の進む海外では、車種や用途に合わせてインホイール型、減速機一体型、デフ直結型など様々な形態の電動アクスルの研究開発が行われている。同時に、付随するインバータやDC/DCコンバータ、電動補機などトラックの使われ方に適切な製品の実用化にも力が注がれている。こうした現状を踏まえて、国内外専門メーカーとの連携により、少量生産でも高効率な商用車電動化技術を確立してゆくことが重要な課題である。

まとめ

 輸送用トラックは産業全体から老若男女ひとりひとりの日常生活まで「荷物を安全に正確に届ける」という役割を果たす社会的に無くてはならない存在であり、その動力源であるディーゼルエンジンの効率向上の重要性と共に、将来に向けた電動化の技術開発も極めて重要であることを述べた。電動化は、新たな発想から生まれる電動系新装置など、少量生産のスタートから普及に繋げてゆく鍵として、生産を担う企業との連携や量の確保を目指した戦略的な企業間協力も大切である事を申し添えたい。地球温暖化問題は、今や日常生活から輸送に至るプロセスまで、一人一人の創意工夫が求められる時代となっていることを改めて再認識し、次の技術紹介に繋げたい。

【参考文献】
(1-1) 加藤秀輝、中島大、下川清広:CO2低減に向けた大型商用車の効率化 自動車技術 Vol. 74, No. 6 p29-34(2020)
(1-2) 内田登、渡邊学:ディーゼルエンジンの熱効率向上技術 自動車技術 Vol.74,No6 p11-16(2020)
(1-3) 石山拓二、川那辺洋:高効率を目指したディーゼル燃焼の研究 JSAE Engine Review Vol.10 No.3 p.31-37(2020)
(1-4) 飯田訓正:スーパークリーンバーンとはいかなる現象か JSAE Engine Review Vol.10 No.3 p.25-30(2020)
(1-5) 畑村耕一:電気自動車の普及と自動車の Well to Wheel のCO2排出量低減の施策 JSAE Engine Review Vol.9 No.6 p.4-11(2019)
(1-6) 通阪久貴、石森崇:商用車のCO2削減への取り組み エネルギー・資源学会「エネルギー・資源」Vol. 38 No.6 p.34-38(2017)
(1-7) 大聖泰弘:2050年に向けた次世代自動車と動力システム(2015自動車技術会春季フォーラム)
(1-8) 大沢洋:「EV小型トラックのコンセプトと車両性能」自動車技術会春季講演会 No20135370(2013)
(1-9) 遠藤真、杉原啓之、鈴木滋:
ICPC2011-2.7CommercialVehicleDieselEngineand Hybrid System for Today and Future in Hino(2011)
(1-10) 武正伸一、杉原啓之、西田雅彦、鈴木滋:環境に優しい車両の開発 日野自動車の取り組み HINO TECHNICAL REVIEW No.64 JAN(2014)
(1-11) 鈴木孝幸:ecoテクノロジーへの挑戦 p.67-116(2008)
(1-12) 野田智輝:「電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の普及に向けた経済産業省の取り組み」自動車技術、Vol.63 p.4-10(2009)