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Vol.10 No.7

2 大型ハイブリッドトラックについて
柴田 悟
Satoru SHIBATA
日野自動車株式会社 電動パワートレーンシステム開発部
Hino Motors, Ltd.

アブストラクト

 日野自動車は1991年から路線バスにハイブリッド技術を活用したHIMRバスの販売を開始した。2003年からは小型ハイブリッドトラックを発売し、2019年には大型トラックの画期的な燃費向上を狙い大型ハイブリッドトラックを新規に開発した。従来のハイブリッド技術に加え高効率リチウムイオンバッテリの採用、GPSを活用した路面勾配の先読み制御など新技術を組み合わせ、大幅な燃費向上を実現した。ここに開発内容の概要を一部紹介する。

システム構成
パワートレーン

 ハイブリッドシステムの構成を図2-1に示す。歴代の日野ハイブリッド車で実績のあるディーゼルエンジン、クラッチ、モータ、AMT(Automated Manual Transmission)が同軸上に配置されたワンモータパラレルハイブリッド方式を採用した。エンジンは2段過給システムによる小排気量のA09Cエンジンを採用し、高出力化と低燃費化を実現した。モータは永久磁石同期型モータを採用し高効率化を実現。バッテリはエネルギ―密度と充放電効率の高いリチウムイオンバッテリを採用した。

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モータ

 大型路線ハイブリッドバスで実績のあるモータ、インバータを活用することで、コストを抑えつつ信頼性の高いシステムを実現した。モータの冷却方式は油冷であり、図2-2に示す通りロータ回転によってハウジング内に満たされた冷却油を連続的に撹拌することで、冷却油を熱媒体としてハウジング内壁に密着させ、ハウジングを通じて外気で冷却する構造とした。また、ハウジングには冷却効率を高めるため、放熱フィンを追加した。この構造によって冷却油を冷却するためのラジエータが不要となり、部品点数を削減するとともに、制約のある車両の搭載スペースを有効に活用することができた。

HVバッテリ

 HVバッテリはエネルギー密度と充放電効率の高いリチウムイオンバッテリを採用し積載性と燃費性能を両立した。HVバッテリはバッテリパック内に搭載し、外部からの雨水や埃などの浸入よるセルの劣化を防ぐため密閉式の構造とし信頼性を向上させた。また、密閉式のバッテリパック内部を効率的に冷却するため、ブロアファンによる強制対流によってパック内に空気の循環流を作りバッテリを冷却する強制対流冷却方式を採用した。図2-3にバッテリパックの外観を示す。

ロケータによる先読み制御

 ロケータECUを用いた先読み制御を新たに盛り込んだ。ロケータECUはGPS、ジャイロセンサ等から自車位置を特定し地図情報から最大100km先の予測経路上の標高、勾配、曲率、道路種別などを出力する。予測された走行経路上の地形情報をHV-ECUが取得し、車両が経路上で回生可能なエネルギーを予測することで、効率的に燃費効果を得るように充放電をマネジメントする。降坂路における回生エネルギーは地形に依存し長時間継続する場合がある。図2-4に示すように先読み制御では回生区間の始点までにSOCを下限領域まで低下させ、バッテリの容量を最大限活用して回生を行い回生の取りこぼし量を抑えることにより燃費効果を向上する。

クールハイブリッドについて

 ハイブリッド技術の活用方法として、冷凍車の燃料消費低減を目的とした電動冷凍車(クールハイブリッド)を開発した。従来の冷凍車は車両エンジンの動力で冷凍機用コンプレッサを駆動する直結式と、別体の冷凍機専用エンジンで駆動するサブエンジン式であった。電動式の冷凍機用コンプレッサを採用しHVバッテリより回生した電気エネルギーを冷凍機へ供給し燃料低減を行う。図2-5にクールハイブリッドのシステム構成を示す。

まとめ

 日野自動車として初の大型ハイブリッドトラックであるプロフィアハイブリッドを開発した。実路評価パターンで大幅な燃費向上が図れることを確認し、お客様のモニター評価においても満足頂ける燃費向上効果が得られた。今後プロフィアハイブリッドの省燃費効果によりCO2排出量低減に貢献する。

【参考文献】
(2-1) 自動車技術会_動力伝達系の最新技術2019シンポジウム「新型 日野プロフィアハイブリッドシステムの開発」