TOP > バックナンバー > Vol.11 No.1 > 5 EV/HEV

Vol.11 No.1

5 EV/HEV
清水 健一
Kenichi SHIMIZU
本誌編集委員、早稲田大学
JSAE ER Editorial Committee / Waseda University

 電動車用関連の4セッションでは、実用期に入ったHEVやEVのモータそのものの改善や、生産性を改善する設計などの現実的な課題をはじめ、電動車の技術分野での評価が高い発表も多かったが、ここでは電動車両システムの方向性を左右する可能性を秘めたトレンドに的を絞って紹介する。

 EV/HEVⅠ(120)セッションでは、ワイヤレスで給電(WPT; Wireless Power Transfer)される、インホイールモータを核とした磁界結合方式の非接触走行中給電に関する6発表があった。これらの発表の基礎にあるのは、走行中の適切な充電により、搭載電池容量の削減を図りこれによる効率改善(軽量化による)と低コスト化である。主要なものを紹介する。
 藤本ら(5-1)は、モータへの非接触給電機能から始めたインホイールモータの第3世代として、インホイールモータ内で外部からの給電/駆動/回生が完結するシステムについて、プロトタイプによる機能確認を紹介した。モータは、図5-1に示すホイール内側の表面に永久磁石を埋め込んだアウターロータ型のダイレクトドライブモータで、ばね下であるアクスル側に設置された受電コイルの電力をホイール内のAC/DCコンバータで整流した電力で、同じくホイール内の3相インバータでモータの駆動/回生を行い、余剰電力は車両側に搭載された電池に充電する。システマティックな回路は図5-2に示すとおりで、緑の部分がホイール内、青色部分は車両側に搭載され、黄色部分は道路側に設置されている。

 コンポーネント段階でのベンチテストを経て、Cセグメントのセダンを想定したプロトタイプ(後2輪駆動)の車両(図5-3)で機能確認をし、予定した機能が得られることを確認した(図5-4)

 藤田ら(5-2)は、この給電システムの効率を左右する、給電コイルの出力を直流電力に変換する同期整流部分(図5-5、図5-2の下部の詳細図)の効率化について紹介した。ダイレクトドライブのインホイールモータであるため、一般的な、電流信号を用いた同期整流には、高い周波数特性/位相特性が要求されるので、コストとホイール内への実装に課題があり採用できない。もう一つの一般的な方法である送電側の同期信号を利用する方法は、送受間のマッチングがキーになり、汎用性が確保できない危険があるうえ、停車中に充電する充電スタンドへ対応する必要があるため採用できない。そこで、整流側の電流Ioと90度進み位相のコンデンサ電圧VCSを同期整流の同期信号に採用することで、うなり等の発生もなく安定した動作を確認でき、実使用時に生起比率の高い低負荷状態で、電流センサ使用に比べて3%弱の効率改善ができたとしている。

 清水ら(5-3)は、次のステップを目指したチャレンジについて紹介した。磁界型のWPTは、コイル近傍に磁性材料のゴミ等があった場合、共振点がずれて効率が落ちるだけでなく、故障や事故の原因にもなるので、磁性材料のゴミの検出手段が重要である。さらに、検出された場合は安全維持のためにゴミの排除に設備の稼働停止が必須となる。そこで、図5-6に示すように、受電コイルをタイヤホイールに沿って設置することで、送受コイル間にゴミが入る確率を低減する方法を提案した。タイヤによる影響をスチールベルトタイヤと有機ベルトタイヤで試験した結果、前者では6%の効率低下と渦電流損による温度上昇があり、これらの影響が出ない有機ベルトタイヤを採用する必要があることに加えて、タイヤホイール用に非導電性の材料開発も必要であるとしている。

 WPTによる走行中給電の実現性が高いと考えられている一つに、一般道の交差点手前の30mに給電設備を設置し、低速走行や信号待ちでの補充電によって、搭載電池量を低減する案がある。本セッションでも永井ら(5-4)が一定ルートを走行するシャトルバスを例に給電能力の向上と必要な給電設備の設置率の関係をシミュレーションで求めている。  これに対して、郡司ら(5-5)が発表した高速道路に設置した際の実現可能性をシミュレーションで求めたものは興味深い。走行前後の電池のSOCが同一になるように要所要所で走行中給電を行うが、登坂時の電力不足が生じないことが一つのキーになる。東名高速道の東京-小牧間を例に,この勾配を制覇できることを条件として、乗用車と消費量が大きい貨物車の双方に対する実現可能性を検討している。走行中WPTは図5-7に示すもので、給電側も前述したコイル状のものを想定している。

 高速道走行では消費電力が大きく供給電力が不足するため、乗用車で2基、トラックでは4基の前述の受電コイルを車両側に設置する方法を採った。一つのD-WPTセッションは1.2km以上とし、D-WPT相互の干渉を防ぐために間に0.8km以上の無設置区間をおくこと、工事が難しいためトンネル内には敷設しないことを条件にシミュレーションした結果、乗用車は平均受電37.4kWで設置率36%のD-WPTが必要であるが、トラックには限界があるとしている。

【参考文献】
(5-1) 藤本博志、清水 修、永井栄寿、藤田稔之、郡司大輔、大森洋一、大塚拓一:第3世代ワイヤレスインホイールモータの開発、自動車技術会2020年秋季大会学術講演会講演予稿集,No.20206053
(5-2) 藤田稔之、永井栄寿、清水 修、大森洋一、藤本博志:電圧検知型同期整流によるワイヤレス給電の高効率化、自動車技術会2020年秋季大会学術講演会講演予稿集,No.20206057
(5-3) 清水 修、永井栄寿、藤田稔之、藤本博志、郡司大輔、桑山 勲:走行中ワイヤレス給電用インホイールコイルの基礎技術開発、自動車技術会2020年秋季大会学術講演会講演予稿集,No.20206054
(5-4) 永井栄寿、清水 修、藤田稔之、藤本博志、郡司大輔:走行中ワイヤレス給電における給電能力向上による送電コイル敷設率の低減、自動車技術会2020年秋季大会学術講演会講演予稿集,No.20206055
(5-5) 郡司大輔、清水 修、永井栄寿、藤本博志:高速道路への走行中ワイヤレス給電の設置に関する基礎検討、自動車技術会2020年秋季大会学術講演会講演予稿集,No.20206056