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Vol.11 No.4

2 脈動流下でのターボ過給機の性能と挙動
Performance and Flow Behavior of an Automobile Turbocharger under Pulsating Flow
宮川 和芳、中村 揚平、大聖 泰弘(早稲田大学)

Kazuyoshi MIYAGAWA, Yohei NAKAMURA, Yasuhiro DAISHO (WASEDA University)

アブストラクト

 内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」プロジェクトでは自動車用内燃機関の熱効率50%の目標を達成するために、損失低減チームで「排気エネルギーの有効利用と機械摩擦損失低減に関する研究開発」が実施された。ターボ過給効率向上サブグループにおいては、従来のターボ過給の高性能化技術に補完する研究開発に取り組み、課題の抽出と解決に取り組んだ。本記事では、従来あまり実施されていなく、本研究課題の重要なテーマであったエンジン吸排気の脈動流下でのターボ過給機(タービン、コンプレッサ)の性能および挙動について研究結果例を示し、エンジン性能との関係を説明する。

脈動流の影響
脈動流下でのターボ過給機の性能

 ターボ過給機は、脈動流下で作動する代表的なターボ機械であり、脈動流周波数と過給機回転数の比は、数十倍にも及ぶ。従来、ターボ過給機の開発、評価は、主に定常流下で行われ、エンジンシステムの中での脈動流の過給機性能への影響は、定常性能上での作動点の変化として扱われてきた。一方、タービンは上流からの排気弁の、コンプレッサは下流の吸気弁の影響を受け、例えば、流量と圧力の関係は複雑なヒステリシスを描く。図2-1は要素模型試験装置を用いた脈動流下でのタービンの性能挙動を過給機回転数に対する脈動流周波数の比(St:ストローハル数)をパラメータとして示しているが、定常流下性能と脈動流下性能は大きく異なっている。このヒステリシスの性能への影響は十分に解明されておらず、高性能化のための研究課題となっている。

脈動流下でのタービン挙動

 エンジン排気の脈動流下で作動するタービン性能は、ヒステリシスを示すが、効率も準定常で算定した性能に比べて低下する。この原因を、実験および流体解析により解明した。図2-2にタービンホイール下流の渦の詳細な挙動を解析した結果(DES)を示す。ホイール下流の渦は、脈動流量の大小に応じてホイール回転方向と同じ、または反対の回転方向を示し、さらに下流で一様化することにより損失となる。ストローハル数を変化させた解析結果により、ストローハル数の減少、すなわちタービン回転数に対するエンジン排気脈動周波数が小さくなるとホイール部と出口ディフューザ部での非定常流れに基づく流体損失が増加することが明らかになった。これらにより脈動流下で稼動されるタービンの特徴が明らかになった。

 

Fig.2-2 脈動流下のタービン出口の渦挙動

脈動流下のコンプレッサ挙動

 脈動流下で作動するコンプレッサの損失発生のメカニズムを解明するために、コンプレッサの非定常流体解析を実施した。コンプレッサのインペラ、ディフューザ、渦巻ケーシングにおける高さ方向の中間断面におけるエントロピの分布を図2-3に示す。解析結果から、ディフューザの後縁付近とディフューザの下流に位置する渦巻ケーシングにおいてエントロピが増大していることが確認できる。エントロピの増加から求めたコンプレッサの損失割合から、脈動流下では、ディフューザと渦巻きケーシングでの損失が増大することが示された。定常流下での効率と比べて、脈動流下での効率は、コンプレッサ回転数に対するエンジン吸気脈動周波数が小さくなると効率の低下が大きいことが明らかになった。

 

Fig.2-3 脈動流下のコンプレッサ内部流動(エントロピ分布)

非定常性を考慮した数値モデルと性能シミュレーション

 従来使用されているGT-Powerの過給機モデルは、定常流の性能マップをデータベースとして用いているが、脈動流はヒステリシスのない準定常流として扱われることから、圧力と流量にヒステリシスのある非定常の損失を考慮することができない。 そこで、図2-4に示すヒステリシスを伴う非定常流の特性が反映可能な過給機の一次元解析モデルを作成した。この解析モデルは、過給機各部の損失をそれぞれモデル化して反映しており、損失発生過程に基づき流体損失が計算される。従って、最適な作動点以外の運転点においても流体損失を理論的に計算することが可能であり、実験では計測できない部分を外挿で補う必要が無くなることがメリットとして挙げられる。タービンやコンプレッサの慣性効果も考慮でき、実際に近い予測が可能となるモデルとなっている。

まとめ

 ターボ過給機の総合効率64%の効率向上を目標とした研究開発の結果、ガソリンエンジンでは総合効率66.8%、ポンプ損失11.7kPa低減を、ディーゼルエンジンでは総合効率69.3%、ポンプ損失56.9kPa低減を達成し、エンジンの熱効率向上に貢献した。本記事で示した脈動流下でのターボ過給機性能は、まだ、研究が始まったばかりであり、その特性を逆に利用したエンジン性能の向上や作動域の拡大など、まだまだ実施すべき技術課題は多い。現在、SIPの延長での活動もターボ機械協会の過給エンジンシステム研究分科会として継続されていて今後の活動成果に期待して頂きたい。

【参考文献】
(2-1) 中村 揚平、宮川 和芳:ターボチャージャタービンの脈動流下における非定常内部流れと損失メカニズム、ターボ機械、2020年11月号
(2-2) Y. Nakamura, M. Chinen, K. Miyagawa、et al、Prediction of a Turbocharger Performance Under Pulsating Flow by Construction of an Unsteady One-Dimensional Flow Analysis Model, International Journal of Fluid Machinery and Systems, Vol.13,Issue 4,,p.743-749
(2-3) 大聖 泰弘、宮川 和芳、飯田 努、三原 雄司:SIP「革新的燃焼技術」(損失低減チーム) 排気エネルギーの有効利用と機械摩擦、日本燃焼学会、第61巻197号、p.213-223(2019)
【さらに学びたい方へ】
(1) ターボ機械:特集「ターボ機械の非定常・非軸対称流れ」、2018年7月号
コメント:ターボ機械の非定常流れについての特集が組まれていて、非定常流れの性能への影響、流動解析、設計技術がわかりやすく解説されている。