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Vol.13 No.4

次世代2ストロークエンジンの開発 ~農業、林業機械用エンジンの可能性~
Development of next-generation 2-stroke cycle engine
野口 祐則
Masanori NOGUCHI
株式会社 やまびこ
YAMABIKO Corporation

アブストラクト

 2ストロークエンジンは軽さを武器に携帯作業機で生き残ってきた。しかし近年、ライトユースから電動化が進んできている。一方、自動運転、IT技術の進歩により農林業分野においても自動機械が導入されてきており、より小型で長時間稼働可能なパワーユニットが待望されている。この新たな分野に参入すべく技術開発を行った。この分野に挑戦するためには弱点の燃費、排ガス性能の改善が鍵。そのためのエンジン開発について紹介する。

「パワーがあるが燃費が悪い、煙い」から「普通以上のエンジン」へ ~次世代2ストロークエンジンの開発~

 2ストロークエンジンは過去にはオートバイ、船外機、スノーモビル等広く使われてきた。しかし現在は排ガス規制の強化により軽さが最重要の携帯作業機以外ではほぼ無くなった。携帯作業機においても次第に電動化が進んでいる。一方、伸長するスマート農業機器、ドローンではタフで小型軽量、長時間稼働可能なパワーユニットが求められている。新たな分野に参入するため性能向上が必要となった。

2ストロークエンジンの弱点「吹き抜け」の改善 ~層状掃気方式から新吸気方式へ

 携帯作業機の排ガス規制はCARB tier2(2000年)が大きな衝撃であった。その対応は特有の現象「吹き抜け」を如何に防ぐかが鍵、その点に集中して研究開発がされてきた。従来の2ストロークエンジンの掃気行程を図2に示す。混合気で燃焼ガスを押し出すため、どうしても混合気が混ざって排出されてしまう構造である。

層状掃気方式の登場(2000年~)

 1997年に発明されたピストン溝を使う層状掃気方式は排ガス対応のコア技術として現在も採用され続けている。構造は混合気とは別に空気を吸気するポートを持ち吸気時、ピストン溝を介して掃気通路に連通させている。空気が掃気通路に充填されることで掃気時に混合気より先に燃焼室内に噴出(先導空気)。先導空気で燃焼ガスを押し出すため混合気(HC)の吹き抜けを大幅に削減することができた。

新吸気方式

 層状掃気方式で吹き抜けを更に減らすには空気の量を増やして行く事が必要だが一定以上は気化器の霧化性能低下による燃焼悪化を招く。そこで新吸気方式は燃料噴射を利用、クランクケース内で混合気形成する。掃気通路からのみ空気を吸気することで先導空気を十分確保しつつ混合気形成も改善、大幅に吹き抜けを削減できた。

Movie.1 新吸気方式のシミュレーション

実証エンジンのスペック、排ガス性能を下図に示す。

普通のエンジンへ ~最新エンジン技術の導入と効果~

 熱効率改善は「圧縮比向上」「リーン化」によって実現している。従来、2ストロークエンジンは圧縮比7程度、λ=0.8が相場値、これは「低温時の加速性」「ランオン」「ノック」等の問題により限定されていた。 燃料噴射化で全帯域の制御が可能になり問題領域を回避、圧縮比12、λ≧1、熱効率25%を達成。バルブが無く設計自由度が高い燃焼室形状を生かし熱効率、リーン耐性の向上に繋げている。

新たな分野への挑戦 ~ハイブリッド化

 定格性能の著しい改善があったが依然として軽負荷域の不正燃焼、ノッキング等、2ストロークエンジンの苦手とする領域は残っていた。この問題とスマート機器対応を一挙に解決すべくシリーズハイブリッドエンジンシステムを開発している。エンジンは高効率化のためロングストローク化(50.1ccφ42x36.2)。実証試験としてラジコン草刈機(幅550mm 重量140kg)に搭載。 結果、刈払機に対し6倍の作業燃費、4時間の連続稼働(平均負荷1.2kW)を達成した。

Movie.2 実証試験

まとめ

 時代と共に製品領域を狭めてきた2ストロークエンジンだったが発見と発明、最新技術により新しい領域に挑戦できるパワーユニットとなった。農園、果樹園、山林など簡単に電動作業機で対応できないフィールドは多くある。そして今後スマート農業機器等の発達により長時間、タフに働く小型パワーユニットが必要になってくる。そのようなニーズに応えるべくエンジンを進化させていきたい。

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【参考文献】
(1) T.SAWADA,M.WADA,M.NOGUCHI,B.Kobayashi,“Development of a Low Emission Two-Stroke Cycle Engine.” P5,Table3 SAE 980761