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Vol.13 No.4

小型建設機械用2.4リッターディーゼルエンジンの開発
Development of 2.4 liter engine for small construction machine
三木 章弘
Akihiro MIKI
(株)アイ・ピー・エー
Industrial Power Alliance, Ltd

アブストラクト

 コマツでは排気量3.3~78Lまでの産業用ディーゼルエンジンを開発・製造している。3.3Lエンジン(4D95エンジン)は43~90kWまでの広いレンジをカバーする一方、7トン油圧ショベルの主戦場である56kW未満の出力レンジ用のエンジンとしては排気量過大であり、燃費やコストの面で競争力が低い。このため、車両全体としての競争力向上のため、車両コンセプト段階からエンジンへの期待項目をゼロベースで検討し、約30年ぶりに新モデルとして3気筒2.4Lの3D95エンジンを開発し7トン油圧ショベルに搭載した。コマツエンジンの特長である耐久性を落とすことなく競争力の高いエンジンとなったので紹介する。

開発エンジンに織り込んだ技術
燃費改善技術

 3D95エンジンでは大幅な燃費改善のため、図1に示す四つの燃費低減アイテムを織り込んだ。一つ、二つ目の項目はいわゆるダウンサイジングとして排気量を3/4とする一方で過給圧を1.4倍とし同一出力を保持しながら車両におけるエンジンマッチング回転を低速側に振ることでエンジン燃費効率の良い領域を積極的に使うことで燃費改善を行った。三つ目は燃焼筒内圧を30%向上させるとともに吸気流路の最適化を行った。四つ目はピストン・コンロッドをはじめとした往復摺動部分の設計見直しにより損失低減を図った。これらの改善により車両サイクル燃費としてエンジン単体で従来機比13%の低減を実現し、車両全体での従来機比28%の燃費改善に大きく寄与している。

排出ガス規制対応技術

 本エンジンは日米欧向けであるが、欧州向けは排ガス中の粒子状物質の数量規制があるためKDPF(図2)を採用し規制に対応した。KDPF仕様ではエンジンオイルに含まれる金属成分が筒内で燃焼することによるアッシュのKDPFへの蓄積が課題であるためエンジン本体でのオイル消費低減をし、KDPFの交換インターバル延長も達成した。他方、日米向けには必要十分な排気ガス浄化性能および消音性能を持ったKDOCマフラ(図3)を採用しコスト競争力の確保にも配慮した。KDOC仕様ではブローバイガス中の粒子状物質(PM)の排出量コントロールが重要であることから高効率のブリーザ(図4)によりこの課題に対処した。

整備性およびコスト改善

 整備性およびコストが現行エンジンの課題であることから、設計検討段階から社内各部門並びにユーザ調査を行った上で、日常点検項目であるフィルタ類の配置の最適化を行い、エンジン本体も部品集約を行った。例として図5に示すようにシリンダヘッドには現行機では別個の部品であった吸気マニホールド、ロッカ―ケース、EGRガス流路の機能を持たせた。また、シリンダブロックにはギアケース、水ポンプケースの機能を持たせた。こうした機能集約による部品低減、補器配置最適化、ならびに56kW未満をターゲットとした補器容量最適化によって現行機比30%のコスト低減を実現した。

振動対策

 レスシリンダ化による燃費低減という恩恵は受けるものの、本エンジンの懸案の一つは3気筒エンジンによる偶力である。3気筒エンジンは図6に示すように主運動系が非対称配置となることでクランクシャフト両端を上下方向に揺さぶる力(偶力)が発生する。バランスシャフトで相殺することで解決は可能であるが、燃費低減効果が目減りしてしまう。本エンジンでは図7に示すようなバランスマスをクランクプーリ、フライホイールに持たせることで上下方向の偶力を水平方向へ変換し、車両開発部門とエンジンマウントの最適化を行うことでエンジン全体としての加速度レベルを現行同等以下とすることができた。

まとめ

 本エンジンは30年ぶりの新規開発ということもあり新エンジンへの期待・要求項目については、入念に関係部門並びにユーザ調査を行った。その中には様々なトレードオフもあったがバランスを取りながら、コマツ7トン油圧ショベルの特長である力強さ、搭載エンジンに必要な耐久性をスポイルしないように十分な検討を行った。また、開発の過程においては数多の課題があったが、シミュレーション・エンジン台上試験・車両試験含めた諸々の確認を十分に行うことで、低燃費をはじめとしたセールスフィーチャを織り込んだ製品に仕上げることができたと考える。

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