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Vol.15 No.6

水素エンジン発電システムの開発状況と今後の展望
Development Status and Future Prospects of Hydrogen-Fueled Engine Power Generation Systems
古川 雄太
Yuta FURUKAWA
三菱重工エンジン&ターボチャージャ
Mitsubishi Heavy Industries Engine & Turbocharger, Ltd.

アブストラクト

 脱炭素社会の実現に向け、最終消費エネルギーの電化と電力の脱炭素化を進める動きがある。これには、再生可能エネルギーの拡大が必須となるが、電力需給や系統容量の問題で発電量が制約を受けている現状がある。
 そのような状況から、水素を二次エネルギーとして利用する計画が世界的に進められている。主力電源としてはガスタービン、分散化電源としては燃料電池が注目されているが、内燃機関のメリットを活かすことのできる水素エンジンも社会実装に向けた動きがみられる。
 そこで、本稿では三菱重工エンジン&ターボチャージャ社(以下MHIET)の事例を中心に水素エンジン発電システムの開発状況や今後の展望について論じる。

分散化電源におけるエンジンと燃料電池の比較
(1)比較概要

 水素を利用した分散化電源用の発電機器(数十kWから数百kW程度を想定)としては、燃料電池(特に固体高分子型燃料電池、PEFC)が実用化されている。そこで、燃料電池(PEFC)と比較したエンジンの特徴を整理し、分散化電源としての利用価値を考察する。なお、比較は原理から導出される一般的な特性における比較であり、個別の開発・販売されている機器の比較に基づくものではない。

(2)エンジンによる発電のメリット

 エンジンの一般的な特徴として以下が挙げられる。
 ・燃料電池(PEFC)と比較し、触媒の被毒の問題がないため、燃料不純物の許容性が高い。
 ・燃料電池(PEFC)と比較し、回収可能な廃熱温度が高く、廃熱の利用価値が高い(エンジンは蒸気での回収が可能)。
 上記特徴から、不純物を含む副生水素ガスが発生する工場や、蒸気を利用する需要家に対して、水素エンジンでの発電はメリットを出しやすい特性がある。
 なお、燃料電池のうち、より作動温度が高く、高い温度での熱回収が可能な固体酸化物型燃料電池(SOFC)と比較すると、エンジンは起動時間が短いというメリットがある。

水素エンジン発電システムの開発状況
(1)開発状況概要

 本項ではMHIETで開発を行っている水素エンジン発電システムの設計や実証状況を紹介する。実証機の諸元を表1 に、外観写真を図1 に示す。なお、諸元における発電出力および正味平均有効圧力は初期仕様であり、更なる出力向上を目指して開発を進めている。

(2)水素エンジンの設計

 従来発電用エンジンで使用されている都市ガス13A と比較し、水素は漏れやすい・着火しやすい・燃焼速度が速い等の特徴がある。これらの特徴は、ノッキング・過早着火・バックファイアのリスクを高めることから、リスクを低減するために以下を採用した。
 筒内圧センサ:失火・過早着火・ノッキング等の異常燃焼を速やかに検知することで、機関損傷等のリスクを回避することを目的で採用した。
 ポートインジェクション方式:ターボ前予混合との比較において、バックファイアが発生した際の機関損傷リスクを低減する目的があり採用した。また、筒内直噴と比べると、水素の必要圧力が低いため、発電機器としての取扱いが容易になる。
 上記を含むMHIET製ガスエンジンとの比較を図2に示す。

(3)水素エンジン発電システムの実証

 2024年10月より、水素燃料を導入した実証試験を開始した。実証試験は、水素気密確認試験や保護装置確認試験等により安全性を確認しながら、始動試験および定格出力(435kW)までの安定燃焼域確認試験まで完了した。
 始動試験においては、補器類のシーケンスやエンジン制御のパラメータを適正化することで、水素以外の起動用燃料に頼らず、100%水素燃料で始動可能なことを確認した。始動から定格出力までのエンジン挙動の一例を図3に示す。
 安定燃焼域確認試験においては、空気過剰率・点火タイミング・燃料噴射タイミング・燃料ガス供給圧力等を適正化することにより、異常燃焼を回避し安定的に運転可能な条件を見出した。定格出力時の筒内圧および熱発生率を図4に、発電効率およびNOxを表2に示す。発電効率はベースとしたガスエンジンGS6R2を搭載する発電システムSGP M500と比較すると若干低下するが、NOx排出はリーンバーンにより抑えられている。なお、各計測結果は開発における試験結果の一例であり、更なる起動時間の短縮や発電効率改善を計画している。

まとめ

 脱炭素社会の実現に向けた課題に対しては、一つの技術での解決は困難であり、様々な技術の組み合わせが必要である。その中で、エンジンは多様な燃料に対応可能という特性から、幅広く活用されるポテンシャルがある。特に本稿で紹介した水素エンジンはCO2の直接排出が無く、かつ、電力需要に応じた出力制御が可能な機器として期待が高い。今後、製品開発を進め、脱炭素社会の実現に貢献する。

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【参考文献】
(1) 野口 知宏 ほか、低炭素・脱炭素社会に貢献する発電用水素混焼・専焼エンジンの開発、三菱重工技報Vol.62 No.2(2025)