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Vol.15 No.8

三元触媒粒子メンブレンフィルタの構造耐久機構
Structure-durability mechanism of three-way catalyst particles membrane filters
吉岡 誠貴、花村 克悟
Masaki YOSHIOKA, Katsunori HANAMURA
東京工業大学
Tokyo Institute of Technology

アブストラクト

 内燃機関の排気に含まれる有害ガス成分と粒子状物質を同時に浄化することを目指し、粒子径1~2ミクロンの触媒微粒子より構成される空隙率60%以上のメンブレンフィルタを提案している。ここではウォールフロー型フィルタの入口平均流速7m/sにも耐えられる構造の耐久性機構を、触媒粒子接触領域のTEM像イメージ解析から明らかにした。その結果、焼成温度の上昇とともに触媒粒子が熱膨張し、粒子間の接触面積が広がることに加え、その接触面内で数百ナノオーダーの一次粒子が入組み合うこと、さらに素材のガラス転移温度以上で焼成することにより一次粒子同士の結着が期待されることが明らかとなった。

凝集三元触媒粒子の製作過程とTEM観察用サンプルの作製方法
凝集三元触媒粒子の生成方法

 図1には、凝集三元触媒(TWC)粒子を製作する実験装置の概略を示す。従来から利用されているTWC微粒子(平均粒径200nm)の懸濁水を容器に入れ超音波噴霧器①により水滴(粒子径5~10μm)をキャリアガス②である窒素ガス中に浮遊させる。次に希釈窒素ガス③を加え管状加熱炉④に導入し水分を蒸発させる。加熱炉⑤(今回不使用)を通過しさらに希釈窒素ガス⑥を加えて室温における結露を避ける。この水滴1個に含まれるTWC微粒子の数により凝集後の粒子サイズが決定される。懸濁水のTWC粒子20wt%において平均凝集粒子径が1.6μm程度となる。この凝集粒子を⑦のフィルタにより捕捉する。

接触領域TEM像イメージ解析用サンプル作製手法と接触面積および接触率の定義

 図2(1)には、凝集TWC粒子間の結合状態を解析するためのサンプル作製プロセスを示す。①石英ガラス上で焼成し、その後エポキシ樹脂にて被覆する。次に、2個のTWC粒子が接触しているものを選び②石英ガラスとともにFIB-SEMにより結合面を含むように薄片を切出す。さらに、③80nmの厚みまで両側から薄くする。④薄くスライスされた凝集TWC粒子断面のTEM像から外周について楕円を仮定しフィッティングを施す。さらに接触領域を拡大し元素マッピングとともに一次粒子の重なり状態を解析する。この解析を焼成温度700℃、800℃、900℃、1100℃について行い、室温におけるそれらと比較した。図2(2)には、図2(1)の④における接触領域を拡大したTEM像を示す。赤線が重なった縦方向の長さの自乗が接触面積に比例すると定義した。これは凝集TWC粒子の熱膨張により生ずる。図2(3)では、仮想的な接触線(左図の白線)をその線上の平均輝度が最小となるように選び、それを右図の青線で示しその平均値と最大輝度(赤実線)との比を接触率と定義した。

凝集三元触媒粒子接触領域の元素マッピングと構造耐久機構
接触領域における重なり合いとその元素マッピング

 図3には、接触領域の成分マッピングを各焼成温度について上下の2例を示す。ここで、グレイスケール像は全体、オレンジ色画像はアルミニウム(アルミナ)、青色画像はジルコニウム(ジルコニア)、緑色はセリウム(セリア)の成分マッピングを示す。ここでセリウムとジルコニウムはほぼ同じ位置に存在しいわゆるセリア・ジルコニア(CZ)材料となっている。接触領域において必ずしも二つの凝集TWC粒子の同じ成分が向かい合うとは限らない。このため、成分ごとのマッピングでは全く重なり合っていないような縦方向に黒い亀裂が見受けられる場合が多い。一方、特にアルミナの一次粒子が向かい合った場合には、そのガラス転移温度近傍あるいはそれ以上の焼成温度800℃(Sample H)、900℃(Sample D, I)、1100℃(Sample E)において十分な結着状態が観察される。そこで、成分ごとよりはグレイスケール像の中央縦方向に黒い亀裂に沿ったライン解析からその輝度の平均値により図2(3)にて定義した接触率を求め、一次粒子の入組み方を検討した。

三元触媒粒子メンブレンフィルタにおける構造耐久機構

 図4上には横軸を焼成温度として図2(3)で定義した接触率を示す。熱膨張により接触面積が増大するものの焼成温度700℃までは接触率にはほとんど差がない。アルミナのガラス転移温度近傍の800℃から900℃にわたりアルミナが向かい合う場合(Sample H, D)には接触率が高くなる。一方、1100℃の焼成温度においては、いずれの一次粒子あるいは成分も重なり合うため接触率がいずれのサンプル(E, J)においても高い値を示している。図4下には入口流路に形成されたTWC粒子メンブレンの流体力学的剪断力による剥離率を各焼成温度について示す(1)。表面空孔堆積メンブレンおよびケーキ層堆積メンブレンともに、焼成温度が高くなるとともに剥離率が低減できていることが示されている。

まとめ

 ここではTWC粒子メンブレンフィルタのパーコレーション構造の耐久性について検討した。焼成温度の上昇とともにTWC凝集粒子の熱膨張により粒子間の接触面積が増大し構造強度が増す。そしてその接触面内において一次粒子が仮想接触面を跨いで互いに入組み合いさらに構造強度が増す。素材のガラス転移温度以上では、さらに構造強度が増すことが期待される。

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【参考文献】
(1)荒井 柊人、藤井 慎平、Koko Phyozin、Teerapat Suteerapongpun、花村 克悟:三元触媒粒子メンブレンフィルターの流体せん断応力耐久性に関する研究、自動車技術会論文集、vol. 54、No. 3、pp. 566-573、2023.