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Vol.16 No.2

次世代エンジンを支えるEGRクーラ
EGR Coolers Supporting Next-Generation Engines
榊原 康文
Yasufumi SAKAKIBARA
マルヤス工業株式会社
MARUYASU INDUSTRIES CO.,LTD.

アブストラクト

 クールドEGRシステムはディーゼルエンジンの排気ガス規制の強化に対応するため、1990年代から広く使われ始め、現在ではNOx低減のためには不可欠なシステムとなっている。 また、ガソリンエンジンにおいては燃費改善を目的として、2000年代後半に主にハイブリッド車や燃費重視のエンジンで高効率化のために採用が始まり、日本においては2010年代に一般化した。
 EGRクーラはシステムの効果を最大限に引き出し、エンジンのエミッション低減、熱効率向上を達成するための中核部品であり、技術的には高温環境対応、ファウリング(煤などが付着・堆積し、性能を低下させる現象)、耐腐食性など技術的課題が多い。 本稿では使われ方、ニーズと共に変遷してきたEGRクーラの構造や技術課題等について紹介する。

EGRクーラの概要について
1)EGRクーラの構造・材質について

 図1に代表的なEGRクーラの構造と材質構成を示す。EGRクーラの初期の構造はコンベンショナルな丸パイプを用いた多管式が主流であったが、近年においては高性能化、低コスト化の面から、プレート・フィン積層式構造が一般的となっている。 また、適用される材質についても、SUS316 、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスが一般的であったが、2010年頃からは高温環境下で鋭敏化しない特性、低い線膨張係数(熱応力の抑制)、低コストの要求にミートするSUS430J1L、SUS444などのフェライト系ステンレスが広く使われるようになった。

2)高効率化への取り組み

 排ガス規制の強化やEGR領域の拡大を目的としてクーラの冷却効率を高めることが求められている。図2にEGRクーラにおける伝熱経路を示す。熱は高温側の排ガスからフィン・プレートなどの固体を介して低温側の冷却水に移動する。この熱が伝わる際、排ガスからINNER FIN・INNER PLATEに熱が伝わる際の熱抵抗は、その他の熱抵抗に比して著しく大きいため、ガス側の熱伝達による熱交換量Qを増大させるためには排ガス側の「伝熱面積を増やす」、「熱伝達率の向上」が効果的である。図3にクーラコア断面形状の変遷を示す。また、図4に熱伝達率の改善を目的としたVortex Generator(VG)を付与したインナーフィンおよびVGによる二次流れを示す。VGによる二次流れ(渦流れ)によりガス側の熱伝達率は飛躍的に増大し、高性能化に大きく貢献している。

技術課題と苦労話
1)ディーゼル用二重管式EGRクーラの開発

 当社では1998年よりEGRクーラの量産を開始した。既存のEGRパイプレイアウトをそのままに、ガスパイプにウォータジャケットを被せた二重管式が採用された。図5にその概略図を示す。ガス側には伝熱面積を増大させるためにインナーフィンを設定した。図6に開発時に経験した不具合事例を示す。開発の中で熱応力によるフィンの亀裂と脱落を経験した。
 また、燃料中のサルファ要因で硫酸露点腐食によるフィン全面腐食、フィンろう付部の境界腐食など多くの問題が発生し、構造や材質仕様の適正化により問題解決を図った。また、この経験と知見はその後に開発されるEGRクーラに大きく活かされた。

2)ファウリング問題

 図7にEGRクーラ壁面に堆積したデポジットの断面写真を示す。EGRシステムの通路には排ガスが流れるため、炭化水素(以下HC)由来のデポジットが堆積しやすい。このデポジットはEGRバルブの固着、ガス通路の圧力損失上昇/閉塞等の不具合、さらにはEGRクーラの冷却性能低下などの問題を引き起こす。EGRクーラには長期にわたり高い冷却性能を維持するために、堆積したデポジットの除去や生成抑制についての特性が求められるが、低負荷時においては、デポジットに影響を及ぼすHCの凝縮は不可避であり、エンジン制御によるデポジットの抑制は重要である。

3)沸騰問題

 EGRクーラにおいて核沸騰から膜沸騰へ遷移すると、フィンから冷却水への伝熱量が減るため、ガス流路部品の過熱と過大な熱応力が発生する。それによりクーラ破損が引き起こされ、クーラントの漏れ、オーバーヒートなどの深刻なトラブルを引き起こす可能性がある。動画1にウォータジャケット内部の核沸騰状態を示す。限界熱流束に近い条件であるが、この状態下ではクーラにクリティカルなダメージが入ることは無い。設計的には「並流レイアウト」、「ウォータジャケットエア抜け性」、「適切水量を確保」等の配慮が基本である。
 また、膜沸騰に遷移しやすいガス入口側の水流を整えるために、水流路中に整流機能を付与することもある。沸騰現象シミュレーション(CFD)はVOF法(Volume of Fluid法/気液界面を直接追跡する解析手法)などが実用化されているが、限界を予測することは難しく設計および制御の両面で、いかに「核沸騰」の段階に留めるかが鍵となる。

Movie.1 ウォータジャケット内部の核沸騰

まとめ

 クールドEGRシステムはディーゼルエンジンだけでなくガソリンエンジンにも広く普及しており、EGRクーラはエンジンの環境性能を支えるキーディバイスとして進化してきた。今後はガソリンエンジンへの適用が増える中で、全運転領域での理論空燃比(空気過剰率λ=1.0)運転対応に伴う高温高負荷域への対応、グローバル展開における粗悪燃料を想定した耐食性の確保、コストの低減など相反する要素も多く、高度な次元でバランスを図っていく必要がある。

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【参考文献】
(1) 内貴 潔、河合 利浩、川本 信樹、竹田 直樹、林 憲示:ハイブリッド自動車用1.8Lガソリンエンジンの開発、自動車技術会 学術講演会前刷集No.79-09
(2) 古川 尚稔、後藤 新三、砂岡 基之:低排出ガス温度・低濃度HC条件において生成するディーゼル機関のEGRデポジット生成メカニズムの解析、自動車技術会論文集Vol.45,No.3,May 2014
【さらに学びたい方へ】
(1) 瀬下 裕、藤井 雅雄:コンパクト熱交換器、日刊工業新聞社
コメント: 伝熱と熱交換器の基礎と応用が分かりやすく解説されている。