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Vol.12 No.2

カーボンニュートラルに向けたモビリティの燃料
Mobile fuel for carbon neutrality
渡邊 学
Manabu WATANABE
ENEOS株式会社
ENEOS Corporation

アブストラクト

 モビリティのエネルギー源として、3E+S(エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)+安全性(Safety))が成立する燃料(図1)でないと広く普及することは難しい。石油系液体燃料は3E+Sを満たし、エネルギー密度が高いことなどからモビリティ用のエネルギーとして広く使われてきた。現在、モビリティのカーボンニュートラル(CN)化が求められている。モビリティのCNを達成するためには様々な方法がある。CNな液体燃料と内燃機関の組み合わせでもCNは達成できる。CNへのアプローチは様々なケースが考えられるが、この過程において重要なのは、地球へ放出される全CO2 量で評価する必要があり、比較にはLCA評価が好ましい。また、CNにいたる最適な方法は国や地域によって異なるかもしれない。どの道筋をたどるにしても、まだまだ技術開発が必要である。そのためには、多様な選択肢を残し、技術開発を進めることが必要だと考える。

多様な選択肢を求めて
モビリティ用燃料に求められるもの

 モビリティ用燃料を含むエネルギーの話をする際に常に考えなければいけない「3E+S」は、我が国のエネルギー政策の基本とされている (1) 。現在、求められているカーボンニュートラル(Carbon neutrality: CN)は、環境への適合の観点からの要請だが、どのようなCNなエネルギーであっても、経済的に成り立つ仕組みで、必要としている人に継続的に提供できるだけの生産量が確保できなければ、広く普及することは難しいであろう。

なぜ液体燃料が使われてきたのか

 これまで自動車や航空機、船舶などの移動体(モビリティ)のエネルギー源として、石油由来の液体燃料が広く使われてきた。これはなぜであろうか。もちろん、相対的に安価に提供されてきた、とか備蓄が容易で災害時にも強いという理由もあると思われるが、一番大きな理由はやはりエネルギー密度が高いことであろう(図2)。モビリティは自分自身が使うためのエネルギー(燃料)を運んでいかなければならない。仮にエネルギー密度が低い燃料を使用した場合には、積載量が減るか、航続距離が短くなるか、いずれにしろ経済効率性が損なわれることになる。

カーボンニュートラルとは何か

 昨今よく耳にするカーボンニュートラルとは何か知っているであろうか。温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを、カーボンニュートラルと定義されている (3) 。「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しており(図3)、日本は2050年のカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。もちろん排出量をゼロにしてもカーボンニュートラルとなるが、排出量がゼロにならなくても、排出した分を植林、森林管理などで吸収すればカーボンニュートラルとなる。 更にいま、二酸化炭素(CO2 )を削減する方法として注目されているのが、排出されたCO2 を集めて地中に貯留したり、集めたCO2 を再利用したりしようというアイデアである。CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)やカーボンリサイクルといわれているもので、これも温室効果ガスの吸収にカウントされる。

モビリティのカーボンニュートラルとCN燃料

 モビリティのエネルギーをカーボンニュートラル(CN)にするにはどのような方法が考えられうであろうか。もちろん電池とモータのみで動くバッテリEV(BEV)にするのも、その電気のすべてをCN由来とすることを前提とすれば、一つの方法であろう。一方で、CNな液体燃料と内燃機関の組み合わせでもCNは達成できると考えられる。ではCNな燃料としてどのようなものがあるであろうか。
 太陽のエネルギーで光合成をし、大気中のCO2 を固定化した植物由来のバイオ燃料もCN燃料の候補の一つである。食料と競合しない、また新たな土壌開拓を必要としないバイオマス資源から製造されるバイオ燃料(第二世代および次世代バイオ燃料)は、製造面での技術的課題も残ってはいるものの、導入時の初期投資は比較的小さく、比較的短いリードタイムで社会実装できる可能性がある。ただし、サステナブルにかつ大量のバイオマス資源を確保することは大変難しいと考えられている。
 現在、CN燃料として期待されているものに、再エネ合成燃料がある。再エネ合成燃料とは、再生可能エネルギー由来の水素と大気等から回収した二酸化炭素を原料にして、触媒を用いた合成反応で再エネ合成粗油を作り、これに水素化分解や異性化等のアップグレーディングを施して得られたガソリン、ジェット燃料、軽油等を指す(図4)。再エネ合成燃料は、製造工程にまだまだ技術開発が必要であり、大量生産するためには経済的な価格での水素の確保とそのための再生可能エネルギー由来の電力の確保が課題として挙げられている。
 さらに、現在の石油系燃料に何らかの脱炭素措置(CCS,CCUS等)の効果を付与した燃料もCN燃料として扱うことができると考えられている。
 いずれにしろ、重要なのは、温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を考える際にLCAで評価する必要があるということだ。自動車等から排出されるGHG排出量のみではなく、燃料の製造時や車両の製造時の排出量でカーボンニュートラルでなければならないと考える。

まとめ

 私たちが目指すものは、地球温暖化の防止で、そのためにこれ以上温室効果ガスを増やさないカーボンニュートラルな世界の実現である。そのための道筋は幾つもあり、最適な方法は国によって、また国内でも地域によって異なるかもしれない。だがどの道筋を辿るにしても、まだまだ技術開発が必要である。そのためにいま必要なのは、多様な選択肢を残し、技術開発を進めることで、それぞれの国に最適な道を考えていくことではないか。私たちの敵は「炭素」ではなく、ましてや「内燃機関」でもない。炭素は適切に管理して利用する道もあると考える。ぜひ、持続可能な社会に向けて共に取り組んでもらいたい。

【参考文献】
(1) エネルギー白書2021 P22 経済産業省、https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/
(2) 合成燃料研究会 中間取りまとめ 経済産業省、https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/gosei_nenryo/20210422_report.html
(3) 脱炭素ポータル 環境省、https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/