TOP > バックナンバー > Vol.15 No.5 > 貴金属-卑金属複合化による三元触媒低温活性の発現
火花点火エンジンのゼロエミッション化には、低温始動時の排気浄化がポイントである。本研究では、三元触媒(TWC)における貴金属と卑金属の複合化による活性点構造制御を発展させ、貴金属使用量の削減および低温活性の発現を目的とした。卑金属触媒と貴金属触媒を複合化するとともに担体との相互作用を最適化した触媒を検討した結果、PtPd/CeO2-ZrO2(CZ)+Ni/CeO2の組合せが有望であることを見出した。粉末触媒による成果をもとに、異なる仕様の単層および二層ハニカム触媒を試作し、貴金属使用量を25%削減した上で現行触媒を上回る低温活性を達成した。
次世代エンジンの高効率化や電動化の進展は排気温度の大幅な低下を招くため、低温始動時の排気浄化が課題となる。一方で排気温度の低下は触媒熱負荷の低減を意味する。例えば、排気温度が最高800℃であれば、1000℃程度の耐久性が必須とされる現行TWCとは異なる組成・構造によって、より優れた低温活性を発現できる可能性がでてくる(図1(a))。同様に耐久温度が800℃まで下がれば、より少ない貴金属使用量で現行TWCと同程度の浄化性能を達成できると期待される(図1(b))。本研究では、このアプローチとして貴金属-卑金属複合化触媒に着目した。
担体に各金属の硝酸塩水溶液を含浸担持後、空気中600℃、3 h焼成した。得られる触媒粉末をスラリー化し、コーディエライトハニカム(600 cpsi)に所定量コーティングしてテストピースを作製した。触媒はエンジン排気を模擬したモデルガスを用いて耐久処理した。Lean(L、8% O2)の静止雰囲気およびStoich.(S、A/F = 14.6)、Lean(L、8% O2)、Rich(R、A/F = 13.0)を繰り返すSLRサイクル条件での2種の耐久処理を行った。LおよびSLR耐久処理条件は800℃×5 hとしたが、比較対象となる現行触媒については1000℃×5 hとした。耐久後のテストピース(φ10×10 mm)の触媒活性はライトオフモードで評価した。Stoich.組成のモデルガスを空間速度105 h−1で供給した場合のライトオフ温度をNO、CO、C3H6の転化率が50%に達する温度(T50)として評価した。
Cuと貴金属の複合化Cu、NiおよびCoなどの卑金属は、TWC条件ではNO還元活性が乏しいが、COおよびC3H6酸化に高活性を示す。Cu/Al2O3はair雰囲気であれば熱処理後も熱劣化しにくいため、Pd/Al2O3との粉体混合物について検討した。混合触媒は800℃でair耐久後は劣化の程度は小さいのに対して、より酸素濃度が低いL雰囲気やSLR雰囲気での耐久ではNO浄化性能が急激に低下した(図2)。電子顕微鏡で熱劣化機構を調べたところ、air耐久後はCu2+がAl2O3中に固溶しているが、L耐久後はCuがPd粒子周辺に析出し、SLR耐久後はCuPd合金が形成した。すなわちSLR耐久による顕著なNO浄化能の低下は活性点となるPd金属がCuと合金を形成するためと推定される(1)。
Niと貴金属の複合化Cuは低融点で蒸気圧が相対的に高いため、貴金属と組み合わせた場合に還元雰囲気下で著しい劣化を引き起こすことは以前にも報告されている(2)。そこで次に貴金属への悪影響が少ないNi系を検討した。中でもCO–O2およびCO–NO反応に対して貴金属に匹敵する活性をもつNi/CeO2に着目した(3)。しかし、この触媒単独ではTWC条件におけるC3H6酸化活性およびNO還元活性は低く(図3(a))、耐久処理後もほぼ同様の結果であった。耐久およびTWC反応においてNiは酸化状態(Ni2+)が保持された。次にPtPd/CZとNi/CeO2の粉末混合物(質量比1:1)について同様に耐久処理してTWC性能を評価した。初回のライトオフで遅れが認められたが、2回目以降のライトオフでT50が大幅に低下してPtPd/CZを上回る高い活性を達成した(図4(b) (c))。すなわち、この粉末混合物では二種の触媒成分による相乗効果が発現すると考えられる。
複合化触媒のハニカム化貴金属と卑金属の複合化によってTWCの貴金属使用量を節減した上で作動低温化を可能にする候補物質としてPtPd/CZ+Ni/CeO2複合触媒に着目し、ハニカム触媒を試作した。両成分を二層に分けて、もしくは混合して単層としてコーティングした仕様の小型テストピース(φ10×10 mm)を試作し、そのモデル排気浄化性能について検討した。その結果、二層コートに比べてPtPdとNiが近接する単層コート仕様がより高活性で、L耐久後に最も低いライトオフ温度(現行触媒と比較して貴金属使用量25%削減した上でNO、CO、C3H6のT50ともに70℃以上低減)を達成した(図4)。両触媒成分が近接する単層コートの方が、水性ガスシフト反応やCO-NO反応などH2OとCOが関わる反応系に優位性が高いことが一因と考えられる。
貴金属と卑金属との複合化においては、正負両方の効果が表れるのは避けられず、正の効果(活性向上)を引き出すと同時にいかに負の効果(劣化)を抑えるかが鍵になる。PtPd/CZ+Ni/CeO2の組み合わせは、両条件を満足する数少ない複合化触媒の候補である。ただし、耐久後の初回ライトオフやLean条件でのライトオフではまだ目標である貴金属25%削減と触媒活性化温度70℃以上低減を同時に満足しておらず、今後さらなる性能向上を目指して引き続き検討していく予定である。
この成果は、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施した助成事業(JPNP21014)の結果得られたものです。
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