TOP > バックナンバー > Vol.15 No.6 > 水素ICEの最新開発状況 ~特集の背景と概要~
我が国では、自動車用水素エンジンの開発は1970年ごろから行われてきたが、2000年代に水素エンジン自動車の少量のリース販売が行われた程度で、普及レベルには至らなかった。しかし最近では、2015年のパリ協定以降のカーボンニュートラル意識の高まりや政府のグリーンイノベーション基金などを背景に、かつてない規模で水素ICEの開発が進んできている。そこで本特集号では、各アプリケーションにおける水素エンジン開発の状況を紹介する。なおここでは、過去の代表的な水素エンジン車の開発について紹介し、それらの水素エンジン車が普及しなかった理由と今後の水素エンジン開発に対する期待について述べる。
水素エンジンの開発は、武蔵工業大学(現 東京都市大学)における取り組み(1)が最も有名で大規模である。1974年の武蔵1号に始まり、1997年の武蔵10号まで、世界中様々な地域で水素エンジン試作車を走行させている。開発した水素エンジンも、無過給&過給、ポート噴射&直噴、火花点火&熱面点火、気体水素&液体水素と多様な技術を試しており、水素エンジン技術の発展に大きな貢献をしている。詳細は参考文献(1)に詳しく記載されているので興味のある方はご覧いただきたい。
(2) 自動車会社の取組み自動車会社としては、1991年から2010年にかけて行われたマツダのロータリーエンジンを使った取組み(2)が注目された。ロータリーエンジンの特徴として低温部と高温部が分離されているため、水素を燃料として用いる上での課題となる異常燃焼を抑制できるとしている。水素ロータリーエンジンを搭載したRX-8は国土交通大臣の認定を受け2006~07年にかけて10台程度がリース提供された。水素ロータリーエンジンにハイブリッドシステムを組みわせたプレマシーも5台程度が2009~10年にリース提供されている。またBMWは2007年に7シリーズをベースとしたHydrogen7を開発し、100台程度を世界でリース提供している(3)。マツダおよびBMWのいずれも水素とガソリンを切り替えることができるデュアルフューエル仕様となっており水素が入手できない場合の実用性も配慮していた。
マツダやBMWが開発した水素エンジン車は実用に耐える動力性能を備えていたものの普及には至らなかった。この理由は定かではないが、一つは短い航続距離にあったと思われる。資料によるとマツダRX-8ハイドロジェンREで100km、マツダプレマシーハイドロジェンREハイブリッドでも200km、BMW Hydrogen7で200kmしか航続距離が無く、水素ステーションの設置数が少ない現状においては、200km程度の航続距離では実用には大きな障害となる。一方、水素FCEVのMIRAIは初代でも650km、最新型では850kmに達しており、十分な台数とは言えないもののすでに1万台を超える累計販売台数を達成している。
今後、水素エンジンが受け入れられるためには、自動車用としては実用的な航続距離の確保が不可欠である。エンジン高効率化技術、ハイブリッドシステム、高圧水素タンクを適用することで水素エンジン車においても航続距離を伸ばすことができれば、水素ステーションや水素価格など供給側の問題が解決した暁には水素エンジン車にも普及の可能性はある。また舶用においては内航船など短距離で運用される船への適用が期待され、発電用については水素パイプラインの整備が出来れば可能性が高まる。小型モビリティや作業機での水素エンジンの活用も可能性がある。将来の水素社会で引き続きエンジンが活躍していることを期待し、各アプリケーションに対する水素エンジン開発状況を次章より紹介していく。
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