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Vol.15 No.6

2輪エンジンを用いた水素エンジン車両でのダカールラリー挑戦
Dakar Rally Challenge on Hydrogen Engine Vehicles with Motorcycle Engine
宮嶋 昇平、平野 雅貴、甲斐 大智、南部 佑太、藤木 俊孝
Shohei MIYAJIMA , Masataka HIRANO , Daichi KAI , Yuta NAMBU , Toshitaka FUJIKI
本田技研工業株式会社、カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、トヨタ自動車株式会社、ヤマハ発動機株式会社
Honda Motor Co.,Ltd , Kawasaki Motors, Ltd. , Suzuki Motor Corporation , Toyota Motor Corporation , Yamaha Motor Co.,Ltd

アブストラクト

 二輪業界においてカーボンニュートラル化の要求が高まる中、本田技研工業株式会社、川崎重工業株式会社、カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、トヨタ自動車株式会社、ヤマハ発動機株式会社の6社が共同で小型水素エンジンの研究組合「HySE」を立ち上げ、課題解決に取り組んでいる。水素エンジン技術を確立するにあたり、厳しい環境条件下での早期課題抽出により基盤技術構築を加速させるため二輪用水素エンジンをバギーへ搭載し、2024年から世界一過酷と言われるダカールラリー(以後ダカール)に参加している。2024年は完走したものの、走破率は90%にとどまった。そこで、2025年はより広い運転領域での課題抽出を目的に改良を行った。ここでは2024年の課題への対策と2025年の車両開発の内容について紹介する。

参加カテゴリーと車両改良点

 挑戦の舞台となる“Mission 1000 ACT 2”は、カーボンニュートラルに向けた技術開発を促進するカテゴリーである。水素エンジンやEVおよびこれらのハイブリッドシステムを搭載した車両が参加し、約1000kmの走破に挑戦する。2年目となる本年は、より実用的な課題抽出を可能とするために、高負荷使用率および航続距離の向上を図った「HySE-X2」を投入した。エンジン適合の最適化により2024年の課題であったエンジンの高出力化を実現し、エンジン使用領域を柔軟に選べるようにエンジン内のトランスミッションを運転席から変更できる機構を追加した。さらに、水素タンクを3本から4本に増設し、前述の出力特性の改良を実現しながら航続距離の向上も図った(図1)。

水素エンジン
2024年からの改良点

 HySE-X2に搭載する水素エンジンはカワサキ製998cm3遠心式過給機付き4気筒エンジンを気体水素燃料用に変更したもの(図2)である。2024年に高回転運転の障害となっていた現象の対策として一部の電装部品を変更してある。高回転運転時に懸念となる水素インジェクタへの電流供給能不足を補うためDC/DCコンバータにより昇圧する補助回路を追加した。制御適合においては部分負荷域での燃費改善を狙い、低負荷領域の当量比を昨年よりも小さくしリーン燃焼とした。これにより広いエンジン運転領域で熱効率の向上を実現した(図3)。また、点火時期、噴射時期の見直しにより全回転数領域で最大トルクの向上を達成し運転可能領域は昨年比2000min-1拡大した(図4)。

ダカールラリー参加によるデータ取得結果

 図5にダカール2024、2025で取得した使用領域のプロットを示す。運転可能領域拡大とギヤシフタの追加により2025年はより広範の実走行データを取得できた。水素エンジンはガソリンと比較して点火時期より早期に着火する異常燃焼(プレイグニッション)が発生しやすく、この抑制が課題の一つとなる。図5は通常燃焼を〇、プレイグ発生時を△で表しており、6000min-1以上の特に高負荷においてプレイグが発生していることが確認できる。前述したように、2025年は最大トルク比50%以下の領域をリーン側にセッティングしたことで50%以下の負荷領域でも発生していたプレイグが抑制できたと考えているが、高負荷領域のプレイグは依然抑制できていない。現在プレイグの発生原因のすべてが明らかになっていないため、今後は発生原因の解明に取り組む計画である。

水素セーフティ制御

 HySE-X2は高圧水素ガス燃料を使用する。水素リークなどの異常を検知するとエンジン停止とタンク弁を閉じるシステムとなる。また燃料消費による断熱膨張でタンク温度が大きく低下すると樹脂タンク破損のリスクがあるため、タンク温度を監視し必要に応じて燃料消費を抑えるロジックを実装している(図6)。ダカールではアクセル全開走行を長時間続けるという区間があり、冬のサウジアラビアの低温の影響も重なり出力制限が作動する場面があり、過酷な環境下での燃料消費とタンク温度の関係についてのデータを取得することができた。プレイグ発生においても、発生の抑制やエンジン保護に関する制御において課題が見られた。

まとめ

 2024年の課題に対してエンジン出力と航続距離を向上させた車両で2025年ダカールラリーへ挑んだ。海外でのテストや14のステージを走る中でプレイグニッションの抑制など新たな課題を抽出できた。また昨年より長く、厳しいステージとなったものの結果的にクラス2位を獲得し、全距離走破をクラス唯一成し遂げることができた。期間中はSNS等で世界各地のフォロワーから応援の声を多数いただいた。内燃機関によるカーボンニュートラルを望む声が見られ、我々の取り組みが受け入れられ始めたと感じる。今回得られたデータを水素エンジンの研究に生かし、車両にフィードバックしながら走る実験室として挑戦を続ける。

Movie.1 HySE-X2 ダカールラリー走行

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