TOP > バックナンバー > Vol.15 No.8 > 火炎合成による排ガス浄化触媒の構造制御と粒子生成機構解明に向けたマルチスケール解析
担持金属触媒は自動車排気後処理システム等において重要であり、その性能や耐久性は粒子径や金属分散性などの粒子構造に大きく依存する。触媒製造において、従来の湿式法では構造制御に多段階な行程を要するため、多様な構造の粒子を簡便に合成できる火炎合成が注目されている。本研究では、火炎合成によってPt/CeO2触媒を作製し、火炎温度が粒子構造とCO酸化性能に及ぼす影響を調査した。高温火炎下で生成される微細CeO2粒子と高分散Ptが触媒活性向上に寄与することを明らかにし、数値流体力学解析により粒子形成ルートの温度依存性を定量化した。さらに前駆体含有液滴の蒸発過程の分子動力学解析より、ナノスケールの粒子形成機構を議論した。
本研究では、火炎合成の一方式である火炎補助式噴霧熱分解(FASP)を用いてPt/CeO2触媒粒子を合成した。装置は同軸拡散バーナ型で(図1)、火炎中心軸上の最大温度Tfが1556、1785、2026 Kとなる3条件を設定した。前駆体は水溶性の白金およびセリウム塩を含む水溶液とし、超音波噴霧により微細な液滴として火炎中に導入した。液滴は火炎中で急速に蒸発し、前駆体が熱分解し、核生成・粒成長を経てナノ粒子が形成される。火炎温度は外管酸素流量を調整することで制御した。合成後の粒子はグラスファイバーフィルタで捕集し、X線回折法(XRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、窒素吸着法、COパルス吸着法により粒子構造を評価した。
火炎温度がPt/CeO2粒子の構造に及ぼす影響図2(a-f)はPt/CeO2粒子のSEMおよびTEM画像である。Tf = 1556 Kでは直径数百nmスケールのCeO2球状粒子表面や内部に10 nm程度のPtが担持された粒子が多く見られたが、火炎温度の上昇に伴い、10 nm以下の微細CeO2粒子の生成が顕著になる、バイモーダルな粒子構造が観察された。また、エネルギー分散型X線分光法により、TEM画像内の微細CeO2粒子表面に1 nm以下のPtが均一に分散していることが確認された(図2(g))。窒素吸着法により測定した比表面積はTf = 1556 K、1785 K、2026 Kでそれぞれ7.97 m2/g、40.6 m2/g、112 m2/g、COパルス吸着法により測定したPt分散度もそれぞれ4.67%、11.5%、20.6%を示し、火炎温度が上昇するにつれ、微細なCeO2粒子と高分散状態のPtの生成が促進されることが示された。
火炎温度がPt/CeO2粒子のCO酸化性能に及ぼす影響異なる火炎温度で合成されたPt/CeO2触媒のCO酸化性能を評価した。各合成粒子での酸化試験により、火炎温度の上昇に伴い反応活性が向上し、CO転化率が100%に達する温度(T100)は513 K(Tf = 1556 K)から378 K(Tf = 2026 K)へと低下した(図3(a))。この性能向上は、微細CeO2粒子上に存在する高分散なPtにより活性点密度が増し、CO酸化に優位なPt-CeO2局所構造が形成されたためと推察される。また1223 Kにおける熱劣化後の特性を評価すると、Tf = 2026 Kの合成粒子は熱劣化後も含侵法と比較して一桁ほど高いPt分散度を示し、CO酸化活性も含侵法より優れた結果となった(図3(b))。これらの結果は、FASPによる高温場での触媒合成が、性能と耐久性の向上に寄与する可能性を示唆している。
数値流体力学と分子動力学による粒子形成機構の解明数値流体力学解析上で導入された多数の液滴の軌跡を図4(a)に白線で示し、代表的な赤および緑の例の火炎中での温度履歴を図4(b)示している。図4(c)では、前駆体析出時の気相温度に関する全液滴の確率密度分布を示している。その結果、図4(d)で示すように、微細CeO2粒子の生成を促進する温度域(489 K以上)に滞留する液滴の割合が,高温火炎条件において増加することが確認された。さらに、分子動力学解析により蒸発時における液滴内での前駆体凝集挙動をナノスケールで追跡し、粒子の初期成長過程を補完的に明らかにした(図4(e))。これらの結果は、温度場と粒子形成挙動との因果関係を把握する上で有効であり、合成プロセスの設計指針に資する知見を提供する。
本研究では、FASP法で合成したPt/CeO2触媒を対象に、火炎温度が粒子構造およびCO酸化性能に与える影響を実験的に評価すると共に、火炎中における粒子生成機構を数値解析によって考察した。火炎温度の増加に伴い、微細CeO2粒子と高分散Ptの形成が促進され、CO酸化性能が大きく向上した。さらに数値流体力学解析および分子動力学解析により、温度場と粒子形成挙動の関係性をマルチスケールで明らかにした。これらの知見は、合成条件とそれに起因する触媒構造の因果関係を明らかにし、高効率な高機能触媒製造への展開可能性を示している。今後は、これらの成果を基にしたプロセス設計最適化の指針化に加え、他の金属系触媒材料への展開や解析手法のさらなる高度化が期待される。
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