TOP > バックナンバー > Vol.16 No.1 > 第5章 共生と変革の時代(2000年代~)
3階北フロアでは、ホンダが取り組む最先端ロボティクス技術(ASIMOなど)の研究開発や、航空機分野への新規参入など、従来の枠組みを超えた新たな価値創造への挑戦の歩みを紹介している。創業以来受け継がれてきた「夢の実現」への想いを基盤とし、ホンダは技術領域の拡大と革新に果敢に挑戦し続けている。展示では、ASIMOに代表される人に寄り添うロボットの開発、HondaJet Eliteなど航空機分野への進出、第4期F1での戦いなど、ホンダが技術革新を通じて社会に新たな価値を提供し続ける物語が描かれている。
「鉄腕アトムをつくれ」という目標を掲げ、人の身近な場所で役立つロボットの開発を目指したホンダの挑戦が始まった。ASIMOは、人に寄り添い、生活の質を向上させるとともに、人の可能性を拡大することを目的として開発されたロボットである。1986年にASIMOの前進機であるE0(図1左端)が開発され、一歩進むのに15秒を要した。二足歩行の原理に関する研究が開始され、その後E1からE6、P1、P2、P3を経て、2000年に現行のASIMOが発表された。
ASIMOは、人の生活空間に溶け込むサイズを実現し、階段や斜面を自在に移動できるほか、走ったり、ジャンプ、ケンケン、両手の指を器用に使った手話や紙コップへの給水など、多様な動作が可能となった。2011年には、歩行の最高速度が6km/hに向上し、視覚・聴覚・触覚などのセンサを活用することで、世界で初めて自律的に判断して動作するロボットへと進化していった(図2)。
「航空機をやろうじゃないか」。1986年、本田技術研究所和光研究センター(後の基礎技術研究センター)が設立され、ホンダは航空機および航空機エンジンの研究を開始した。創業当時から抱き続けていた空への夢がついに動き出した。航空機の世界に新規参入するからには、全く新しい価値を提供できる航空機でなければならない。HondaJetの開発チームは既存の常識にとらわれず、複数の新技術の実現性を徹底的に検証し、それらを統合することで革新的な機体を生み出した。既存の延長線上にあるものをホンダがつくっても意味がない。そうした想いからの挑戦だが、航空機の設計はチャレンジングな目標設定だけでは成立しない。経験と理論に裏付けられた目標設定、そして緻密な開発の積み重ねにより、HondaJetは誕生した。HondaJetは、ビジネスジェットとして世界で初めて主翼上面にエンジンを配置する(Over-The-Wing Engine
Mount)という常識を超えた発想や、独自開発の自然層流翼型・ノーズ、一体成型複合材胴体など、数々の革新的技術を採用している。これにより、クラス最高水準の最高速度、最大運用高度、上昇性能、燃費性能、静粛性、室内サイズ、航続距離を実現している。米国連邦航空局(FAA)からの型式証明取得のために240万ページの提出書類を作成し、2015年12月8日ついに型式証明を取得した。その後、2018年5月27日には、スイス・ジュネーブで開催された欧州最大のビジネス航空ショー「EBACE2018」にて、アップグレード版のHondaJet Elite(図3)が世界初公開された。
HondaJet Eliteは、従来モデルの技術に加え、航続距離の約17%延長やエンジンノイズ低減による客室内の静粛性向上、アビオニクスシステムの進化による離着陸時・飛行時の安定性と安全性の強化など、さらなる進化を遂げている。2018年4月にはFAA、同年5月には欧州航空安全局(EASA)の型式証明も取得し、世界にその技術力を証明した。また、航空機エンジンHF120(図4)の開発は、前型のHF118を基盤にGEとの合弁で2005年に開始された。当初は小改良による量産を計画していたが、競争力を確保するために全コンポーネントを刷新する方針へと転換した。低燃費化および高推力化を目指し、低圧圧縮機と低圧タービンは1段から2段へと刷新された。これにより、重量を維持しつつ推力を17%向上させ、燃費を3%改善するという目標が設定された。加えて、大型エンジン並みの排出規制値のクリアや、オーバーホール間隔5000時間の達成も求められた。2007年にはデモエンジンにより目標性能を達成し、耐久試験やバードストライク試験など数々の厳しい型式証明試験も着実に乗り越えていった。約9000時間に及ぶ試験と190件のレポート提出を経て、2013年にはFAA型式証明を取得し、事業化への道が開かれた。
第4期F1への再参戦以降、5年が経過し数々の困難を克服した結果、2019年のF1世界選手権第9戦オーストリアGPにおいて、再参戦後初となる優勝を達成した。また、第20戦ブラジルGPでは、ホンダF1として1991年以来となる1-2フィニッシュを記録し、着実な技術進化を示すシーズンとなった。厳しい戦いが続く中その翌年に、F1活動を2021年で終了することを告げられたホンダの技術者達は、その最終年に結果を残すべく、予定より1年前倒開発にて、新骨格パワーユニットの投入を実施した。その結果、最終戦の最終ラップにて逆転優勝を果たし、見事年間ドライバーズチャンピオンシップのタイトルを獲得している。なお、筆者が以前に企画し、本誌で発行した「F1パワーユニット勝つための技術と挑戦」では、そのF1パワーユニットに込められた技術や情熱について、開発に携わった技術者自身が解説している。勝利が容易ではない状況の中で、苦しみもがいて、ひねり出した新技術に対するチャレンジ精神、そして成功の瞬間に味わう感動が、数々のエピソードとともに描かれている。より詳しくは、前掲の特集を参照されたい。そして、2026年には新レギュレーションに合わせ、ホンダはアストンマーティンと手を組みF1復帰を発表した。2026年3月、新たな戦いの幕が開いた。
ホンダの次なる空への夢は、従来の空のモビリティに対して離発着の利便性や静粛性に優れた「eVTOL」(電動垂直離着陸機)を中心とした次世代交通システムの創造である。ガスタービンハイブリッドシステムの環境性能をさらに向上させ、将来的には100%持続可能な燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF)を活用することで、CO2排出量の大幅な削減を目指している。さらに、宇宙分野への展開として、2025年ジャパンモビリティショー(JMS2025)では、再使用型「サステナブルロケット」実験機(図6)の展示を行った。2025年6月17日には、自社開発の再使用型ロケットの実験機(全長6.3m、直径85cm、重量Dry 900kg/Wet 1312kg)を用いて、離着陸実験をホンダとして初めて実施した。その結果、目標とした機体の離着陸挙動の作動(到達高度 271.4m、飛行時間56.6秒)、上昇・下降時のデータ取得を実現し、離着陸実験は成功を収めた。特筆すべき点は、着地位置の目標に対し、実際の着地点の誤差がわずか37cmであったことである。将来的には、これらのモビリティが実用化され、Honda Collection Hallに展示されることが望まれる。また、日本が培ってきたものづくりの強みを生かし、カーボンニュートラルの実現とともに、モビリティ技術の発展が今後も継続していくことを期待したい。
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