TOP > バックナンバー > Vol.16 No.3 > ガソリンサロゲートへのエタノール混合がすす排出特性へ及ぼす影響

Vol.16 No.3

ガソリンサロゲートへのエタノール混合がすす排出特性へ及ぼす影響
Effect of Ethanol Blending on Soot Emission Characteristics of a Gasoline Surrogate
伊藤 千将、橋本 淳
Kazumasa ITO, Jun HASHIMOTO
大分大学大学院工学研究科、大分大学理工学部
Graduate School of Engineering, Oita University, Faculty of Science and Technology, Oita University

アブストラクト

 カーボンニュートラル社会に向け、エタノール混合燃料のすす生成特性を体系的に評価した。ガソリンを3種類の燃料で模擬したガソリンサロゲートPM3とエタノールの混合燃料を用い、Burner-Stabilized Stagnation Flameにより、燃料混合割合、当量比および窒素/酸素比を変化させて燃焼実験を実施した。その結果、窒素/酸素比が大きい条件ではエタノール混合に伴いすすは顕著に減少する一方、窒素/酸素比が小さい条件では減少効果が弱まり、当量比2付近かつ約20%混合ではすすが増加する非単調挙動を確認した。さらに、詳細すすモデルの検証を行い、エタノール混合に伴うすす低減の再現性や条件依存性の課題を明らかにした。

カーボンニュートラル社会に適合した燃料のすす排出特性
はじめに

 カーボンニュートラル社会に向け、バイオ燃料の有効利用が期待されており、特にエタノールは実用性と供給安定性の観点から有望である。一般にエタノール混合はすす低減効果をもたらすとされるが、近年、その効果は燃料や燃焼条件に強く依存し、混合割合が20%前後ですすが増加する場合も報告されている(1)。しかし、実用ガソリンに対する体系的検討は十分でない。本研究では、ガソリン特性を模擬するサロゲート燃料PM3とエタノールの混合燃料を対象に、当量比および窒素/酸素比を制御した過濃予混合火炎を用いて、すす排出特性を実験的に評価するとともに、詳細すすモデルの妥当性を検討した。

実験装置および実験方法

 本研究ではBurner-Stabilized Stagnation Flame(BSS火炎)を用いた燃焼実験により、過濃予混合火炎中のすす生成特性を評価した。予混合気は多孔板から供給し、噴流衝突平板との間に形成される伸長流動場で火炎を安定化させた。実験装置概略を(図1)に示す。すす体積分率はレーザ透過光減衰法により測定した。燃料にはガソリンサロゲートPM3(イソオクタン 65 %、ノルマルヘプタン10 %、トルエン25 %)とエタノールの混合燃料を用い、混合割合、当量比および窒素/酸素比を体系的に変化させた。当量比は、実機エンジン中において混合が不十分な領域、また、プール燃焼が生じる領域を想定しつつ、バーナ装置で安定した実験が行える2前後の値とした。窒素/酸素比は、空気に相当する3.76およびそれより小さい条件に設定した。窒素/酸素比は1.07までの範囲を調べたが、この3.76より小さな条件は、実用的には酸素富化燃焼に相当する。
 学術的には、炭素数が小さな燃料における研究で、燃焼時の温度が高い条件であるほどエタノール混合に伴う効果に非線形な影響が観られていたことから(1)、断熱燃焼温度が高い条件を検討することを目的として設定した。なお、数値解析にはAnsys Chemkinを用い、ミラノ工科大学の詳細すすモデル(2)を用いたモデル計算を行った。実験装置の詳細は文献に譲る(3)

結果および考察

 図2にエタノール混合割合がすす体積分率に及ぼす影響を示す。いずれの当量比においても、窒素/酸素比が大きい条件ではエタノール混合に伴いすすは顕著に減少する。一方、窒素/酸素比が小さい条件ではその低減効果は弱まり、当量比2付近では混合割合約20%においてすすが増加する非単調挙動が確認された。予備検討の結果、平衡温度および温度分布の影響は小さいことが確認された。図から、本研究で評価した詳細すすモデルは、混合割合に対して単調減少傾向のみを示し、増加挙動および希釈依存性を十分に再現できていない。

 過去に実施した、イソオクタン/トルエン混合燃料において、そのイソオクタンをエタノールで置換してゆく実験では、図2と同様に置換率20%付近で、すすが増加しており、モデルは定性的かつ定量的に実験結果を再現した(図3)。当初これは、エタノール置換により相対的にトルエン分率が上昇することと、イソオクタン由来のすすの低減による相乗効果と理解していた。本研究ではPM3へのエタノール混合であるため、トルエン分率が低下してゆくにもかかわらず、同様に20%付近ですす増加が観察されている。そこで、PM3中のイソオクタンをエタノールで置換する追加実験を行ったところ、増加幅は図1より大きいことがわかった(図4)。この差分がトルエン増加の影響であり、そのうえで、反応論的にすすが増える影響について改良の余地があると考えている。

まとめ

 本研究では、ガソリンサロゲートとエタノールの混合燃料を対象に、BSS火炎を用いてエタノール混合割合、当量比、窒素/酸素比を系統的に変化させ、すす体積分率を評価した。その結果、エタノール混合によるすす低減効果は一様ではなく、窒素/酸素比に強く依存し、条件によっては減少率の低下や増加を示すことを明らかにした。さらに、既存の詳細すすモデルによる再現性評価を行い、エタノール混合効果の予測には改良の余地があることを示した。今後、本研究で得られた知見を活かし、開発中のエンジン用すすモデルのアップデートを行う予定である。
 最後になりますが、ご支援いただいた皆様に心より感謝いたします。ありがとうございました。

×

この記事(あるいはこの企画)のご感想、ご意見をお聞かせください。
今後のコンテンツづくりの参考にさせていただきます。

コメントをお寄せいただきありがとうございました。

職種

職種を選択してください

コメント

コメントを入力してください

閉じる
閉じる
【参考文献】
(1) Lei XU, Yu WANG, Dong LIU : Effects of oxygenated biofuel additives on soot formation: A comprehensive review of laboratory-scale studies, Fuel, Vol. 313, 122635 (2022)
(2) Andrea NOBILI, Niccolò FANARI, Timoteo DINELLI, Edoardo CIPRIANO, Alberto CUOCI, Matteo PELUCCHI, Alessio FRASSOLDATI, Tiziano FARAVELLI : Kinetic modeling of carbonaceous particle morphology, polydispersity and nanostructure through the discrete sectional approach, Combustion and Flame, Vol. 269, 113697 (2024)
(3) 橋本 淳、今原 岳:内燃機関の設計計算に適用可能な粒径分布予測モデルの開発 - イソオクタン/ノルマルヘプタン/トルエン混合燃料に対する検証 -1、自動車技術会論文集、Vol. 54、No. 4、pp. 672-679 (2023)
【さらに学びたい方へ】
(1) 橋本 淳、伊藤 千将、窪山 達也、酒井 康行、秋濱 一弘:内燃機関の設計計算に適用可能なすすの粒径分布予測モデルの開発 - 5成分ガソリンサロゲートに対する検証 -、自動車技術会論文集、Vol. 56、No. 6、pp. 1051-1057 (2025)
著者らがAICE研究にて開発中の実機エンジン用のすすモデルに関する論文です。