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Vol.16 No.5

壁面近傍における水素予混合火炎の消炎現象の可視化解析
Visualization analysis of quenching phenomena of hydrogen premixed flames near a wall
老田 拓未、松村 恵理子
Takumi OIDA, Eriko MATSUMURA
同志社大学大学院、同志社大学
Doshisha UNIVERSITY, Doshisha UNIVERSITY

アブストラクト

 カーボンニュートラル社会実現に向けて、水素内燃機関が注目されている。水素内燃機関は、水素の燃焼速度の速さや燃焼温度の高さ、消炎距離の短さによる冷却損失の大きさが課題である。本研究では消炎距離の短さに着目し、定容燃焼容器を用いて、水素予混合火炎の消炎距離を可視化的に測定することで、水素火炎の消炎現象の解明を試みた。水素火炎は燃焼速度が速く、消炎距離も数十µmと非常に短いため(1)、光学測定に高い時間・空間分解能が求められ、筆者が知る限りでは未だに測定成功例はない。本報では、この水素予混合火炎の消炎距離を可視化的に測定する手法の一つとして、アセトンを用いた未燃領域の可視化による消炎距離の特定を検討した。その結果、壁面における蛍光のS/N比は改善したが、さらなる測定手法の改善が必要である。

アセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の消炎距離測定への適用
アセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の測定手法

 図1に火炎が消炎する際の壁面近傍における温度分布と水素濃度分布を示す。アセトンは水素とともに燃焼するため、既燃領域や反応帯ではアセトン濃度が小さく、蛍光強度が減少する。この特性より、火炎が壁面で消炎する際の予混合気が燃焼しない領域である消炎層からの蛍光を測定することで消炎距離の測定を試みる。測定手法確立に向け、二つのステップに分けて実験を行う。まず壁面近傍において、アセトンからの蛍光が測定可能であるのかを非燃焼場において検証を行う。そののちに、燃焼場において消炎距離の測定を試みる(図2)。本報では一つ目のステップである非燃焼場における壁面極近傍の蛍光の測定を行った。

アセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の実験装置系

 図3にアセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の実験装置系を示す。定容燃焼容器の前面はガラス窓であり、アセトンからの蛍光が測定可能である。また右側面はスリットガラスであり、このスリットガラスからレーザ光が入射される。レーザ光は波長266 nmのNd:YAGレーザを壁面近傍に照射し、アセトンからの蛍光をCCDカメラで測定した。アセトンの添加割合は0.4vol%であり、レーザシート光厚さは1 mm、レーザ光強度は50 mJで実験を行った。混合気の初期圧力は0.1 MPa、初期温度と壁面の温度は室温で実験した。アセトンはインジェクタにより噴射され、各気体とともに撹拌機で3分間攪拌し、均質な混合気を形成した。

アセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の実験結果と考察(平板壁面)

 まず非燃焼場における壁面近傍の蛍光が測定可能であるかを検証した。図4は非燃焼場におけるアセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の測定画像20枚の画像を平均化した画像である。撮影視野は10.4 mm×7.9 mmで、空間分解能は7.7 µm、撮影倍率は0.83倍である。この画像の壁面からの距離における輝度値を図5に示す。壁面に近づくにつれ輝度値は減少した。これは幾何光学的に壁面が壁面極近傍にある蛍光の障壁となるためである(図6)。この壁面極近傍にある蛍光の障壁を減らすため、壁面の形状を図6のように曲面にして実験を行った。

アセトンを用いたレーザ誘起蛍光法の実験結果と考察(円柱壁面)

 平板壁面から円柱壁面に変更した際の壁面近傍の蛍光測定画像を図7に示す。図7は5回の測定画像を平均化した平均画像である。また撮影視野は6.9 mm×5.2 mmで、空間分解能は5.1 µm、撮影倍率は1.26倍である。この平均化した画像の中心軸における輝度値を図8に示す。壁面から遠ざかるにつれて輝度値が増加し、壁面から約0.4 mm離れた位置から輝度値は一定となった。平板壁面の場合と比較して、壁面極近傍にある蛍光の障壁が減少し、輝度値が一定になるまでの壁面からの距離は短くなった。これにより壁面極近傍のS/N比は向上したが、現状では消炎距離測定は困難である。今後、より曲率の小さな壁面形状や崖形状(図9)への変更することで壁面による減光の影響をさらに低減できると考える。

まとめ

 定容燃焼容器内の壁面近傍における水素予混合気に対して、水素火炎の消炎距離測定へのアセトンLIF計測の適用性を検証した。その結果、平板壁面に近づくにつれて、測定された蛍光は減少した。これは幾何光学的に壁面が壁面極近傍にある蛍光の障壁となるためである。また壁面形状を平板壁面から円柱壁面に変更し、壁面近傍の蛍光を測定した結果、壁面極近傍にある蛍光の障壁が減少し、輝度値が一定になるまでの壁面からの距離は短くなった。壁面におけるS/N比は改善したが、現状では消炎距離測定は困難である。今後、より壁面形状をさらに改善することで、壁面による減光の影響をさらに低減し、測定手法を確立していく。

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【参考文献】
(1) 福田 正志、大道寺 達、坂本 雅夫、是松 孝治、メタン・水素・一酸化炭素系燃料の消炎距離、燃料協会誌、61巻(1982)2号、p.118-125
(2) Bastien Boust,Sotton Julien,S.A.Labuda,Marc Bellenoue,A thermal formulation for single-wall quenching of transient laminar flames,Combustion and Flame 149(2007) ,pp286-294
【さらに学びたい方へ】
(1) 小坂 英雅、壁面近傍の消炎層におけるレーザー計測技術、日本燃焼学会誌、第63巻204号(2021)、p.109-116