自動運転HMI委員会

1.活動目的

自動運転への社会的な期待の一つが交通事故の削減である.手動運転が主である現状において,交通事故の約90%が発見遅れや判断,操作ミスなどのヒューマンエラーによって発生していることが分かっている.したがって,人間のドライバーをシステムで置き換えることによってヒューマンエラーを排除し,交通事故を削減しようという考えである.しかしながら,レベル2自動運転車が全世界で市場投入された2016年以降,自動運転機能を搭載した車が引き起こした交通事故がいくつか報告されている.今後レベル3以上のより高い自動化レベルへの技術進化に加え,一般道を含めたシステムの作動領域(Operational Design Domain; ODD)の拡大が予想され(官民ITS構想・ロードマップ),自動運転車が引き起こす事故を排除する努力とともに,仮に起きてしまった場合の責任所在の考え方を構築することが重要である.
交通事故の削減を期待されている技術が,なぜ交通事故を起こすのか?これまで報告されている自動運転車が引き起こした事故の多くは,自動運転車であるがゆえに引き起こされたシステム起因事故(System-induced crashes)である.システム起因事故の背景には,複雑なシステム機能と,ドライバーのシステムへの過信,システム機能の誤った理解や理解不足,システムの誤った使用など,複雑なヒューマンファクターが介在していると考えられる.これらのヒューマンファクターは,前に述べた現状事故の90%を占めるヒューマンエラーとは異なるものである.不幸にもシステム起因事故が発生してしまった場合,その原因はドライバーにあるのか,システムにあるのか,それは事故に対する法的な責任の所在の根拠となるべきものである.SAE自動運転レベル定義においては,ドライバーとシステムそれぞれのタスク/責任分担が定義されているが,それがそのまま起きてしまった事故の原因および責任分担とすることは,あまりに乱暴で短絡的な思考であると言える.大事なことは事故の原因がドライバーのタスク不履行にあったのか,システムのタスク不履行にあったのか,そしてドライバーのタスク不履行があったときに,それは果たしてドライバーが本来実行可能なタスクにおいて過失があったのか,それともドライバーのタスク/責任が,そもそも人間の能力限界を超えたものとして設計されていたのではないかなど,人間とシステムのインタラクション,さらには人間の能力限界とシステムの機能限界に関する深い理解が必要であり,法的な責任所在の判断の根拠となるべきエビデンスが不足していることも事実である.それがこれまで発生した自動運転車が関わる事故において,被害者側と製造者側の主張が両極に分かれ,裁判が長期化している一因になっていると考えられる.
本委員会に置いては,以上の背景のもとに,法学の専門家と産学のヒューマンファクターおよびシステム研究者・開発者が議論することにより,万一システム起因事故が起きてしまった場合の法的責任所在の考え方の構築,および法的責任所在を決定する上で不足しているエビデンスを明確化し,今後の研究開発につなげること,さらにはシステム起因事故を万が一にも起こさないようなシステムの設計指針を導出することを目的とする.議論は,過去におきた事故の状況,過去と現在の実裁判および想定事故の模擬裁判,さらに自動車以外の工業製品における過去の事故と裁判などにフォーカスを当てるとともに,今後の技術進化に伴って起こりうるリスクについても検討を行う(自動運転車と歩行者など他の交通参加者との事故など).本委員会の活動内容はオープンにして広く啓蒙を図るとともに,最終的なアウトプットを提言としてまとめる.

2.委員長・幹事(2022-23年度)

委員長 北﨑 智之(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
幹事
  • 青木 宏文(名古屋大学)
  • 赤松 幹之(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
  • 伊藤 誠(筑波大学)
  • 佐藤 昌之(特定非営利活動法人ITS Japan)
  • 中山 幸二(明治大学)

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