会長ごあいさつ

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会長 中嶋 裕樹
  • 1987年 トヨタ自動車株式会社入社。2005年 第2 トヨタセンターZC、トヨタ第2 乗用車センター、製品企画本部付(新興国)チーフエンジニアを経て、2025年 取締役副社長・執行役員 兼 CTO 現在に至る。

未来を切り拓くための準備と挑戦

このたび、自動車技術会の会長を拝命いたしました中嶋です。本会会長という重責を担うにあたり、自動車技術会が今この時代に果たすべき役割の重要性をあらためて強く認識しています。

現在、自動車産業を取り巻く環境は、かつてない速度で変容を遂げています。バッテリーEVに代表される電動化の急速な進展、社会のあらゆる領域に波及するAI技術の革新など、数年前には想像し得なかったことが、今まさに現実のものとなっています。日本経済を支える自動車産業が、今後もその存在感を世界に示し続けられるかどうか、私自身、強い危機感と責任を感じています。

一方、GDPランキングの低下が象徴するように、日本の競争力・技術力は国際社会の中で厳しい位置にあります。過去の成功体験や慣習に縛られることで挑戦を躊躇し、失敗を恐れる風土が醸成され、それが日本全体の技術進化の足かせになっているのではないかと危惧します。

しかし、日本の自動車産業には現在550万人の仲間がいます。資源に乏しいこの国が世界に誇る産業を築き上げることができた背景には、先人たちが現場で汗を流し、変化に果敢に挑み、失敗をも糧としながら、たゆまず技術を磨き続けてきた歴史があります。

現在のような時代の転換点において、今まさに求められるのは、技術者一人ひとりが「予測するより、あらゆる準備をする」という姿勢です。ここで言う「準備」とは、過去の学びを礎としながらも、「誰も未だ経験したことのない領域へと思い切って足を踏み出すこと」を意味します。たとえ失敗したとしても、それは次なる挑戦に向けた貴重な経験であり、その積み重ねこそが未来への確かな「準備」となります。

これからの自動車産業は、これまで以上に大きく変わります。移動のための「クルマ」にとどまらず、移動に伴う体験・サービス・社会的価値をも包含する「モビリティ」へと、その領域を広げていきます。勝ち残っていくためには、AI、通信、半導体、エネルギーといった、これまで関わりが少なかった領域へも、技術の幅を積極的に広げていくことが不可欠です。

自動車技術会は、こうした多様な領域や立場の技術者が、組織や肩書にとらわれることなく自由闊達に議論できる、数少ない貴重な場です。企業・大学・研究機関をつなぐ知の結節点として、技術者同士が互いに学び合い、未来への「準備」を進める場として大きな役割を果たします。

いかなる困難な状況にあっても、会員の皆さまと力を合わせて取り組むならば、私たちは必ずや未来を切り拓いていけると確信します。その武器は、他でもない「技術力」です。一致団結し、自動車技術会を次代にふさわしい姿へと進化させていきましょう。

※2026年6月発行 自動車技術会会誌「未来を切り拓くための準備と挑戦」より